第21話 初日 20:00-2

 役職 狩人

 タスク このスマートフォン(以下「SP」と称する)を所持(使用者から十センチ以内)した状態で二人殺害する

 追記 他のSPが同じフロアに来た時、バイブ機能が鳴る


 役職 聖職者

 タスク 指定のアイテムを祭壇に捧げる

 追記 殺戮者(マーダー)に認知されない


 役職 奴隷商

 タスク 奴隷を譲渡する

 追記 一人を奴隷化する


 役職 盗賊 

 タスク SPを六つ所持する

 追記 ロックされた部屋を解錠できる


 役職 職人

 タスク クリアアイテムを作成する

 追記 アイテムの合成ができる


 役職 裁判官

 タスク Locked

 追記 Locked


 役職 学者

 タスク 全てのルールを把握する

 追記 Locked




 全員の役職を確認し終えると、皆言葉に詰まってしまっていた。

 情報量が多いためどれから手を付けていけばいいのか悩むのと、

 ……タスクがロックされているとはどういうことなんだ?

 追記ならまだわかる。しかし生き残るための方法が明記されていないというのは筋道がないのと同じことだ。

 源三郎がそれに触れるべきか否かで迷っていると、


「まず誰かを殺して達成するタイプのタスクは除くとして残った物で考える必要があるな」


 最初に口を開いたのは益人だった。

 次に春夏が顎に手を当て脳内に浮かんだ言葉を口から吐き出す。


「そう考えると殺し合いのゲームなのに積極的に殺さなきゃいけないタスクって少ないのね」


「あー、確かにな」


 颯斗も同意していた。

 現状わかっているタスクで殺害が必要条件になっているのは和仁の狩人のみだった。ここにはいない参加者に偏っている可能性もあるが確率的に言えば多くないように思えた。

 その理由はすぐに思いつく。


「単純な殺し合いが見たいだけでは無いからだろう。男性の他に女性や子供を集めてただ殺し合わせるとなれば賭けにならないから」


「なるほどね」


 あくまでこれはゲームなのだ。有利不利はあっても決定的な差が最初から決まっていては意味がない。

 だからこそ、全員生存という夢物語も実現できる。それをゲーム開始前に気づいてしまった蓮の発想力の異常さに、感嘆と同時に懐疑的にも見えていた。

 あの場ではリピーターであることをばらされ動揺していたが、そもそも彼もリピーターか、観客から差し向けられた刺客なのではないだろうか。事前にルールを知っていたならあのようにすらすらと言ってのけることもたやすい。むしろそのほうが納得できる。

 そして、それにいったいなんの得があるのか。結局ゲームの行く末に関われていないのならわざわざ死ぬリスクを冒してまでやることじゃない。だから違うとまでは言わないが可能性は低いように思えていた。

 全て想像の内の話であり、今は彼の正体など重要では無い。優先すべきは手の付けようのない狩人以外のタスクと追記の内容を詰めることだった。

 そしてその中でも気になるものは、 


「ロックされてるってことは解除する方法があるって事よね?」


 春夏が自身のスマホを眺めながら呟く。

 全体を見てロックされている項目は三つ。裁判官のものは何をすればいいか分からないため置いておくとして学者の追記が気になるところだ。

 何かしらのトリガーによって解除される。そうであって欲しいし、そうでなくては困る。

 問題はそのトリガーが不明であり、そのことについての説明は一切無いようなので、


「タスククリアかアドオンか。若しくはそういうアイテム……だといいな」


 益人は頭を描きながら言う。

 全く未知の可能性もある以上、彼の態度も納得だった。

 いずれ探索を続けていけば判明することだろう。そう信じることしか今は出来ないため、源三郎は他の役職について考え始めていた。

 重要なワードも目に引っかかるが何より、


「スマホを持つだけでいいのか……」


「いや、これ絶対罠だろ」


 盗賊の役職である颯斗が訝しげに言う。

 罠と思ってしまうほど確かに簡単なタスクだ。しかしそれは今のように協力してくれる参加者が多いからであって、通常ならば交渉や、殺してでも奪うしかない。

 最大五人に対してそれをしなければいけないというのは非常に難しい。そう考えると罠では無いのでは、と思えてくる。

 ……いや、駄目だ。

 源三郎は小さく首を振る。思考が都合のいい方に向いている。罠の可能性を考えるなら、最終的にはスマホを集めるとしてもタスクが終わって用済みになったものでもいいはずだ。

 しかし、それを言う前に、


「いいじゃねえか、駄目だったら駄目で。運がなかったで諦めれば」


「いや駄目だろ」


「ごちゃごちゃ言うなよ。さっさと薬が手に入った方がいいだろ?」


 益人の言葉に颯斗が口をつぐむ。

 タスククリアをすればひとまず自分だけは助かる。それに消極的な姿勢を本人が見せるという不思議な状況が起こっていた。


「やってみればいいじゃない」


 横から春夏も笑みを浮かべて賛同する。二対一、他の参加者も反対する素振りがない。場の空気がタスクを消化する方向へ向いていた。

 安心したいのだ。タスクはクリア出来るという証拠と、自分の時も協力が得られるという前例が。それを理解してしまえばここで強固になれるはずもなく源三郎は黙っていスマホを差し出していた。


「……まじか」


 数は多いが全員のスマホを抱えた颯斗は自分のスマホを手に取って肩を落としていた。拍子抜けしたのか安堵からなのか、その表情から悪い結果ではなかったことだけは伺えた。


「そういうこともあるわよ。案ずるより産むが易しって言うでしょ」


 返却されたスマホを確認しながら春夏は明るく笑みを浮かべる。

 結果オーライだったことに諸手を挙げて喜べはしないが、一歩前進であることには間違いない。目に見える成果に全員の顔が和らいでいた。

 そしてタスクが終われば次に目がいくのは追記の内容だ。

 

「それよりもこの解錠の意味よね。開かない扉はあったけど彼が近づいても開く気配はなかったし」


 春夏が首を傾げ言う。

 探索中に閉ざされた扉を見つけることは多い。他にもうずたかく積まれた物や鉄板が打ち付けられているせいでその先に進めないことも多々ある。それら一つ一つを再度チェックするとなれば重労働、いや時間が足りない。

 それでもしないという選択ができないのは、


「でもそういう部屋って何かありそうですよね」


 皆の思いを代弁するように和仁が言う。

 それぞれのタスクをただこなすだけでは全員生存は叶わない。必要なのは情報であり、重要な物は隠されているんだろうなと確信に近い考えがあった。

 もちろん裏をかいてということもあり、結局総当りでやるしかない。大事なのは漏らさず探索することだ。


「だが今できることはそれらしい所を見つけて記憶しておくくらいしかないな」


「それって今まで通りって事じゃねえか」


 益人に言われ、源三郎は口を閉じるしか無かった。


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