第34話 従妹ジェシカの視点
三日後には王城で開かれるパーティーだというのに気分は最悪だった。
ラヴァル子爵家の財産やドレスだけじゃなくて、まさか屋敷まで追い出されるなんて思ってもみなかったからだ。それもこれも突然現れた騎士団とリビオ・エル・モローなんていう領地経営補佐のせいだ。ちょっと眼鏡を掛けた美男子だから私が声をかけてあげたのに、虫を見るような冷ややかな目で「は?」という腹が立つ反応をしていた。
(なんなのよ! 本当に! ちょっと格好いいからって!)
不正滞在だとか横領だとか意味のわからないことを言い出して、言い返そうとしたのにお父様はペコペコ頭を下げて恥ずかしい。
本当に腹が立つ。
使用人はいないし、屋敷の掃除はされてないから天井には蜘蛛の巣に、部屋の中はほこりっぽいし、雨水が漏れて不衛生すぎる。
「寝泊まりなんてできない」なんて思っていたら、黒装束の連中が高級ホテルを用意してくれた。お父様に何か指示をしていたけれど、私としては清潔で使用人がいるのなら何でもいい。
お気に入りのドレスも取り上げられて腹が立っていたので、ホテルの使用人を呼んで入浴の準備と新しいドレスを取り寄せるように連絡をした。
お母様は三十カラットのルビーの宝石に夢中で、四六時中薬指を見てはうっとりしている。ドレスや髪型は最低限で自分の身なりに気を遣っていたお母様らしくない。まるで宝石に魅入られてしまったかのよう。
(そんなにあの宝石がいいのかしら?)
「ジェシカ、朗報だ。三日後のパーティーでのドレスと宝石が手に入ったぞ!」
「お父様、それは本当なの!?」
別室で商談をしていたお父様は上機嫌で部屋に入ってきた。お母様は頬を染めながら宝石に夢中だったが、お父様は気にした様子はなかった。
久し振りに笑顔で私の頭を撫でる。
「それにラヴァル子爵の証の件を相談したら、なんとジェシカに継承権があるらしい! ほらこのアクセサリーこそがラヴァル子爵家当主の証だそうだ!」
「まあ! 私が」
そう言ってお父様は装飾をふんだんに使われた銀色の箱を私に差し出した。中身は小枝と花をモチーフにした銀と金のイヤリングと、ネックレス、指輪の三点セットだった。特に宝石は白銀に煌めいていて一瞬で目を奪われた。お母様が宝石に見蕩れる気持ちが少しだけわかった気がする。
「お父様、これ……」
「これをつけてパーティーに参加すれば、国王陛下から、ラヴァル子爵家当主としてお前が認められるんだ。なんでもラヴァル子爵は代々娘にしか告げないらしい。となれば娘であるお前だけ」
「私が……当主。ふふっ、お父様嬉しいですわ!」
子爵の財産だけではなく領土、地位や名声も全部私のもの。
耳にするだけで甘美は響きだ。顔がよくて私のことを大事にする貴族の令息を婿に取ればいい。プライドの高い次期当主たちの顔色を窺わなくてすむ。
「さあ、今日からこれらを付けて過ごすんだ」
「でも、お父様。こんな高価なものを普段からつけてもいいの?」
「ああ、宝石がお前を主人と認めるためにも普段から使うようにと、言っていた」
(言っていた? まあ、いいわ。私にふさわしいもの)
早速アクセサリーを付けて鏡を見たが、悪くない。アクセントが少し弱いかもしれないけれど、普段使いなら良さそうだ。
(ふふふっ、私が子爵家当主。当日は薔薇の花のような真っ赤なドレスに身を包んで、完璧な装いをすればミシェル様も私に惚れること間違いないわ。ふふふっ、パーティーでダンスを申し込まれたらどうしましょう~)
それからパーティーに着ていくドレスや靴などを選んで、ホテルの使用人にはこの数日の間、エステの予約を入れた。自分を磨くためには必要なことだ。支払いなどは全て黒装束の連中に任せて久し振りの贅を尽くすことにした。
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