浮かれた世界

浮かれた世界①

 『異世界の街並みを思い浮かべて』と言われて、まず真っ先に思い浮かべるのはどんな風景だろうか?


 大半の人は、中世ヨーロッパ風の建造物が並ぶ街の風景を思い浮かべるだろう。


 そしてその街には、魔法使いや剣士なんかがいて、冒険者ギルドというクエストを受ける場所があり、街の外の森には魔物が住んでいる。なんとなく、そんな感じのイメージを頭の中で描くのではないだろうか。


 2023年頃の地球では異世界もののラノベやらアニメやらが流行っており、人々の頭の中にはそんな共通認識が生まれていた。


 アイリーンは今、そんな”異世界と言えば”な異世界に来ている。


「…はぁ。」


 彼女が赴いた世界は、基本的には上記のような異世界のテンプレみたいな世界なのだが、一つだけ変わったところがある。


 それは…


「フォオオォォォーーーーー!!!」


 街の人々のテンションが異様なほど高いところだ。


 街の至る所で、大声で騒ぎながら踊り狂っている人達を見ることができる。


「いけー!うっちまえ!」


 そんな声が聞こえると同時に、夜空に花火がドカンと打ち上がった。その花火は空高くで弾けて、夜空の下で燦然と輝き、この街を眩しく照らした。


「あれ~?ベアトリックス、飲んでなくな~い??」


 そんな声が聞こえてきた後、ひょうきんなコールが聞こえてきた。この街では至る所で人が飲酒している。


 そして酔っぱらった街の人間達は、各々違ったアクションを起こしていた。


 ある者は普段仲良くない人達と仲を深め、ある者は居酒屋での上司のように他人に説教を始め、またある者は渋谷ハロウィーンの時みたく街の荷車をひっくり返したりしていた。


 そんな中、アイリーンの下にも酔っぱらった一人の男が近づいてきた。


「よう、姉ちゃん!おっ!なかなか可愛い顔してんじゃん!そんなシケタ面してないであっちで一緒に飲まない???」


 話しかけてきたのは、金色の髪を遊ばせているチャラい男であった。アイリーンは心底興味のなさそうな目で彼に言った。


「…結構よ。私、男連れてるから。」


「え~、どこ?そんな男見当たらないけど???」


 男はわざとらしく遠くを見る振りをした。すると、それと同時に少年の声が聞こえてきた。


「姉さん、お水持ってきました!」


 声がした方を見てみると、コップを持ったルイスがこちら側に駆けてきた。


「ありがと、ルイス君。…彼よ。」


 アイリーンはナンパ男にルイスのことを指差して見せた。


 すると、ナンパ男は大声で笑いだした。


「ええ~!!??男ってなに!?この子のこと???はっは!子供じゃん!っていうか、君のことを姉さんって呼んでるってことは弟くんでしょ?いいよ!弟くんも一緒でいいからさ~!向こうで飲もうよ~!」


 そう言いながらナンパ男はさり気なくアイリーンの肩に自分の手を回そうとした。


 その瞬間、彼女の堪忍袋の緒が切れた。


 アイリーンはナンパ男が回してきた右腕と服の胸元を掴むと、そのまま一本背負いをして、物凄い勢いで地面に叩きつけた。そして、すかさず倒れた男の右脇腹に、自身の右足で思いっきり蹴りを入れた。すると、その男はまるでサッカーボールのように吹き飛び、少し遠くで酒を飲んで談笑していたグループに向かっていった。


 談笑していたグループは、男が吹き飛んできたことに驚いていたが、やがてアイリーンを見ると状況を理解したのか、全員が拍手をしながら笑いだした。


「え?なになに?もしかしてコイツのこと吹っ飛ばしたの、お嬢ちゃん?」


「やるね~、お嬢ちゃん!」


「なに?こいつまたナンパ失敗したの?ざまぁ~!」


 そのグループの男女は、ナンパ男とアイリーンを見ながら爆笑していた。アイリーンはそのグループを呆れた様子で睨みつけた後、彼らに背を向けてその場を立ち去ろうとした。


 一連の流れを近くで見ていたルイスは、アイリーンの後ろを追いながら恐る恐るその背中に疑問を投げかけた。


「…姉さん、あの人達は…?」


「たぶん、私とは一生相容れない人達よ。」

 

 彼女は振り向きもせずにそう言った。




 アイリーンとルイスはなぜこの浮かれた異世界にやって来たのか。


 それは少し前の話。

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