永遠の祝祭 ~神主は淫神に凌辱される~

眞山大知

第1章 神主は淫神と邂逅す

邂逅

 燈台の灯りが、心もとなく揺らめいている。燕矢清秋つばめやきよあきは白装束に浅葱色の袴を履いて、羽岩神社はねいわじんじゃの地下深く、六畳ほどの狭い石室に入った。



 奥にふるめかしい祭壇がある。清秋は祭壇の前で深呼吸をした。肺に入る空気は冷たい。かじかんだ手で脇のバチを取り、神楽太鼓を打ち鳴らす。手のひらのマメからひりついた痛みが走った。



 羽岩神社は平安時代中期、武蔵国麻生郷むさしのくにあさおごうに創建されてから千年の歴史がある。燕矢家が代々神主を務め、清秋で三十代目。清秋は大学を出てすぐ家を継いだ。ちょうど今日が二年目になる。



 課せられた宿命はあまりに重かった。

 太鼓を打ち終え、バチを置く。手がふと滑りそうになった。

 懐から祝詞をとりだして、読みあげる。緊張で手が震えていた。この後、本殿に入らなければならない。新しい神主に就いて二年目の日に課せられる、一生に一度だけの義務。

 常世瑠璃羽磐船神とこよるりはいわふねのかみ。それが、これから礼拝する祭神の名だ。



 目線をあげる。祭壇の奥、壁に大きな扉がある。本殿への入り口だ。扉の舟型錠をあけて扉をゆっくりとひらく。

「嘘だろ……!」

 四畳程度の本殿のいたるところがピンクの肉塊で覆われていて、中央には黄色の球体が浮かんでいる。その球体からは糸のようなものが放射状に伸びて、肉塊に繋がっていた。

 見てはいけないものを見てしまった。扉を閉じようと手をかけたが、思いとどまった。もう後には戻れない。それが神主としての宿命。



 覚悟を決めて足を踏み入れる。肉塊を踏むと雪駄が深く沈みこんで、粘液がじわりとにじみ出る。粘液が足袋に染みて気持ち悪い。

「肉の塊だらけじゃねえか」

「誰じゃ」

 突然、透き通るような声が聞こえた。声のする方は黄色の球体。これは神の声だと悟った。おじけづいていけない。

「あなたが常世瑠璃羽磐船神か」

「そうじゃ。お主こそ、名を名乗れ。燕矢の人間にしては若すぎる。まさか、盗人ではあるまいな」

「断じて違います。私は燕矢清秋。歳は二十三ですが、燕矢家の三十代目の当主です」

「……そうか。若いのに、家を継いだのか」

 悲しげ声がしたあと、球体から光が放たれた。目がくらみそうなほど強烈な白い光。本殿全体を照らし、だんだんと強くなる。やがて視界は光だけになった。奥に影が見える。

「若いヤツは久しぶりじゃ」

 影はゆっくり歩いてくる。

「儂だって、オスなんじゃ。若い体を思い切り貪りたいのう」

 清秋は、神の言った言葉が理解できなかった。

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