保育園児ゆうしゃ様と猫耳少女。

マクスウェルの仔猫

一話目 僕が必ず!守ってみせる!

【SIDE‐A】


「はあっ!はあっ!来ないで!」


 自分より遥かに大きい獣二頭に囲まれ、草むらで猫耳を揺らして叫ぶ幼い少女は、黒い毛を泥にまみれさせながら、毛を逆立たせた。


 地面にへたり込む少女の瞳から涙が零れ落ちた。


 それでも擦り傷だらけの手足で、ずり、ずり、と獣から遠ざかろうとする。


 だが。

 獣達はそんな少女の動きを見逃さない。


 ひと噛みで体の半分を飲み込んでしまいそうな大きな口を開けて、吠えてはうなる。


 グルウ!

 ガウフッ!

 ウウウウウッ!


「ひいっ!」


(怖い!怖いよう!お父さん、お母さん!助けて!)


 フワフワと力の入らない、体。

 恐怖のあまりにかすれる声。


 草むらを尚も後退しようと下がろうとするも、障害物で進めずに四つん這いでうずくまるしかない状況に、少女は泣き叫んだ。


「食べられちゃう!怖いよ!助けてえ!」


 そんな叫びも空しく。

 のし、のしと勝ち誇ったように近づいてくる獣達。


 そして。


 獣達の口が、大きく開いた。

 その姿に喉が、ひゅう!と鳴り、頭を抱え込んだ少女。


(…………もう、ダメえ!)






「待て」






 突如響き渡った声に、獣達の唸り声が止んだ。

 少女の耳に、標的を変えて吠え始める獣達の声が聞こえてくる。


(……………………?)


 恐る恐る顔を上げた少女の目に飛び込んできたのは、目の前で獣達と向き合う少年の背中。

 すっきりとした黒い短髪に、白銀に輝く胸当や小手、ブーツがまばゆい。


「助けを呼ぶ声が聞こえたんだ。もう、大丈夫。後は僕に任せて」


 肩越しに少女に微笑んだ精悍な顔立ちの少年は、獣に向かって剣を構える。


「必ず守って見せる!聖剣、フレアブレイド!」







 後ずさり、思い思いの方向に悔し気に遠ざかる獣達。


「もう、大丈夫だよ。怖い獣は僕が追い払った」

「……!」


 そう言って差し出された手に、びくん!と体を硬直させた少女に、少年は微笑んだ。


「怖かったね、わかるよ。でも大丈夫だよ。おいで?」


 変わらずに差し出され続けるその手に、ゆっくりと、ゆっくりと体を近づける少女。


 少女は。


 ずっと心細かった。

 寂しかった。


 一人でお腹を空かせて、彷徨さまよい続ける事にももう、限界だった。


 少女は、温かさを放つその手に焦がれずにはいられなかったのだ。





 少年は少女の頭を、背中を優しく撫で続けている。


「お父さんやお母さんは?おうちはどこなんだい?」

「わからないです。ずっと前にはぐれたっきり、で……」


 そう言って少女は、少年の膝に手を預けては悲し気に目を伏せる。


「そっか。もしよかったら、僕と一緒に来るかい?」

「……?」

「僕をこの世界に呼んでくれた神様にお願いしてみるよ」

「え、そ、そんな事……」


 予想もしなかった言葉に、首を傾げる少女。

    

「僕には、世界を守るっていう使命がある。でも……君が一人で、さっきみたいな危ない目に合うと思ったらもう放っておけない。だから許しを得る事ができたら、僕と一緒に旅をしよう。君の家族探し、手伝うよ」


 少年の言葉に、目を白黒させた少女は声を絞り出した。

 

「で、でも……私……私……自分でご飯も食べれないし、何もできないし……足手まといに」

「あはは、勇者だってできない事はいっぱいあるよ。まあ、すぐに君の家族が見つかったらいいんだけどね。そうなるように頑張ろうよ」


 空いた腕でグッと力こぶを作り、顔いっぱいで笑ったその顔は、幼さがまだ残っている。


 少年の話を聞きながら、その目をジッと見つめていた少女は、途切れ途切れに呟いた。


「いい、んですか?……本当にいいんですか?ついてっても。私、わた、し……絶対ご迷惑になりますよ?」

「男に二言はないさ」

「……ほんとにいいんですか?私、もうここでダメって言われたらわんわん泣いちゃいますよ?」

「泣かせないさ。泣く時も笑う時も一緒だ、これからは」


 ニッコリと笑った少年の服の袖を、少女はそっとつまんだ。


 温かい笑顔。

 暖かい手のぬくもり。

 そして。


 一人ぼっちになって、ずっと欲しかった言葉。


:" 一緒に "

 

 猫耳が、と震えた。


 少女の大きく黒目がちな瞳から、大粒の涙がボロボロと零れ始める。


「……さびしかったの!つらかったの!一人、やだったよう!怖かったよう!」

「うん」

「お腹ペコペコで、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんお姉ちゃんたちもいなくって!」

「うん、うん」


 泣く少女の頭を、そっと撫でる少年。

 その瞳は、まるで。

 眩しく輝く、暖かな太陽のように。


「もう……もう!独りぼっちはやだあ!」

「うん。これからは僕が、君を一人になんかしないよ」

「うわあああああああん!」


 少女の頭を、肩を、体を。

 まるで優しく慈しむような兄のように、泣き止むまで。

 少年は撫で続けたのだった。





 続きまっす!ヾ(≧▽≦)ノ←今日もあいかわらずおかしなテンション

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