第2話 進
「本当に、貴方が生きていて良かった」
昨日は泣きつかれて直ぐに寝てしまった彼女だったが、寝たら少しは回復したようで昨日見かけた時よりも血色が良かった。
「僕も、貴女のことを探してたけど見つかるかどうか分からなかったから、見つかってよかった」
もし見つからなかったとしても、死体を探しにでも無限に動き続けたような気もするが。何せそれ以外の生きる目的が何も見つからなかった。
こうして彼女に会えた今、ある意味生きる意味はない。折角彼女を見つけたという事実を無駄にしないためにも、死ぬようなことはしたくはないが。
「今更だが、名前は? 私はシーナだ」
「僕はルッツ」
「よろしく、ルッツ」
「こちらこそ、シーナ」
この深い地獄の下で、人との距離感など考えている暇もない。もし彼女を失えば、自分は永遠に一人だ。独りで生き、独りで死ぬ。シーナを大切にする以外の選択肢はなかった。
五日間二人とも一人切りだった分、話は弾んだ。将来のことは何となく触れられなかったが、今までのことや、不幸自慢などもした。
「魔石が食べられるということを知っておいて良かった」
「でも、
「ああ、父親に教わった」
シーナが元々住んでいたのは市街地らしく、父親の行商の仕事に付き添って外国に移動している最中に盗賊に襲われて身売りされたらしい。性奴隷などとして扱われなかっただけまだましだとシーナは言うが、こんな状況に陥っているのだからどちらが悪いかも分からないだろう。
「僕は元々捨てられるのが分かってたけど、シーナは突然だったんだね。辛かったね」
「どちらが不幸かを比べても意味がないだろう。私たちはどちらも不幸だ。哀れみも、同じだけ抱いている」
現状が此処まで酷いと、逆に余裕さえ生まれて来るのかもしれない。シーナと顔を合わせてから、少し前まで感じていた不安がかなり和らいだような気がする。
更に五日後。自分たちは移動を開始していた。
流石にこの危険な
いつまでも穴の中で暮らそうという結論に至らなかったのは、あの穴が永遠に安全であるとは限らなかったこと、そして迷宮の構造に理由がある。
そもそも迷宮というのは魔的生命体の一種であるが、その体は二つの部分に分けられる。本体と、外殻だ。ヤドカリなどと同じく、人間が普段潜っている部分は外殻扱いとなっており、正確には
そう、そこが本題だ。
その「撒き餌としての魔物」であれば、相対したとて生き残ることは難しくはない。確かに危険が全くないという訳ではないのだが、「本体を守るための魔物」に比べてその役割が大幅に異なってくるため、命の危険が大きく減少するのだった。
前述の通りこの“掃きだめ“の中でどこまでが自分たちの命を簡単に奪いかねない魔物で、どこからが相対してもあまり危険ではない魔物であるかは分からないのだが、その境目を超えることが出来れば自分たちの身の安全というのは著しく向上する。
つまり何が言いたいのかというと、段階的に魔物の強さが変化していく、のではなく、ある一点を境界に魔物の強さが大幅に変化するのだから、上に向かって進んだ方が良いのではないだろうかということだ。
「それで、ルッツ。やっとこの階層も超えられたが、どこからがその比較的安全な地帯なのかは分かるのか?」
シーナが最初に飛ばされていた層から二層上に上った。全体の層が二百層を超えていることを考えると小さな変化ではある。
「詳しいことは分からないけど、五十層位だって信じたいね。自分の本体から遠いところにある場所では食事も難しいだろうから」
しかし、安全地帯に向かうまでの層が五十層だと考えるとするとこの五日間で二層も進めたのはかなり素晴らしい。
「そうだな。………ルッツがいなかったら私はまだあの穴の中で泣いていただろうな」
「『もし』はないよ」
「………そうだったな。ありがとう」
シーナは少し弱々しく笑った。
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