配信者入門

第43話 生配信_バードダンジョン⑤

 孫の連休までまだ数日ある。その前に私は検証も兼ねてとあるダンジョンにやってきていた。


「こんにちは、お爺ちゃんです。生配信、できてますかね? ちょっと私の顔は撮影の関係上出せないので、キャディの可愛いシーンを映しておきますね」

「くわわー?」


:配信お疲れ様です!

:ここってダンジョンの中なんです?

:生キャディちゃんkrkr


「はいはい。コメントは拾うと前方不注意になるので勘弁してね。基本垂れ流しになるのでご了承ください」


:ダンジョンの中暗くね?

:え、そうか? 普通に明るいと思うが

:レベル1だと暗いままだよ

:つまり?

:暗い=新規ね、把握

:新規に不親切な設計はどうなの?

:文句はダンジョンに言え


「今日はですね、鶯野にあるバードダンジョンに来ています。みなさん知ってるかな? ペンギンさんが居るんですよ」


:ダンジョンにペンギン?

:一応バードっちゃバードだがペンギンも括っていいのか?

:ペンギンはレア

:コンドルタイプが多いよね、あそこ

:今一番猟銃を持っていきたいフィールド!

:銃はダンジョン内で使えないからなー


「入り口で受付をします。ライセンスにはいろんなマークがありますね。スライムの形、鳥の横顔。それぞれが出現モンスターの形状を用いています。地域性に特化していて面白いですよ?」


:ブルーの中で余裕でゴールド混ざってるのプロなんよ

:ブルーとゴールドの差って?

:ゲームで例えるとAランクがゴールド、ブルーはFランク

:登録ダンジョン数も多い件www

:ゴールド一個あるだけでそのダンジョンへの貢献値最強って意味だからな

:それを複数持ってる時点でやべー


「はい、受付をパスして先に進みますよ。道中は光苔採掘者が多く存在します。座り込んでの作業がメインなので腰を悪くしてしまわないか心配です。ちょっと横失礼していいですか? ちょっと水晶を掘ろうと思います。ヨイショ」


 ガツンと、壁がスコップを起点に二メートル四方に、五センチほどの厚みが四角くくり抜かれる。

 足元にポロポロ転がる水晶を拾い上げ、前に進む。


:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?


「今日は運が良いですね。一度の採掘で四つも落ちることは稀なんですよ」


:違くて、説明!

:草www

:相変わらずのアキカゼさんで安心した

:この意味のわからないスキルよwww

:世界よ、これがアキカゼ・ハヤテだ


「やっぱりね、一度探索に来るなら水晶の有無はギミックに影響する。ここのダンジョンはモンスターハウスみたいにモンスターを全て討伐しないと出られない部屋とか、だだっ広いフィールドに隠されたスイッチを探さないと通路が開かない仕掛けがあるんだ。言ってる側からモンスターだね。見えるかな? 結構高い位置にいるんだけど」


 ビデオカメラを上方へと傾ける。

 そこには上空、天井近くで旋回するコンドルタイプのモンスターが眼下にいる私達の様子を伺っていた。

 続いて壁を歩くキャディの姿を映す。


:キャディちゃん、壁歩いてない?

:説明! 誰か説明!

:属性は木か? 見た目動物系なのに、どんな進化してんのか見えねー

:テイマーさんに質問! テイモンってあんなこと出来んの?

:育成次第だな、どんな特性を持つかはテイマー次第なところある


「くわわ!」


:キャディちゃんの勇ましい鳴き声よ

:違いがわかんねーよ

:ってあれ、上空のモンスター拘束されてね?

:属性木で確定! あれは根を張るだな 見た目ケモノタイプだから騙された


「ではキャディが動きを封じてくれたのでこちらからも打って出るよ」


:いやいやいやいや

:この距離でどうやって?

:まずはゴルフクラブを握ります

:足元に玉が出現して

:それを打つ!

:クリーンヒット!

:えぇ……なんでこの人ダンジョン内でゴルフしてんの?

:打って出るの意味が文字通りで草

:その玉どうやって出したんだよ!

:行動すればするほど謎が深まる男、アキカゼ・ハヤテ


「致命打にはならないか。そうこうしてるうちに新たなお客さんのエントリーだ」


:わっ本当にペンギンが来た!

:腹這いで滑ってきてかわいーー

:あの速度で突っ込んでくるとかえぐい!

:あれ? 割と恐怖じゃね、こいつら

:ペンギン✖️ ミサイル⭕️

:しかも数が多いし!


「キャディ、そっちの方は任せたよ!」

「くわわ!」


:あーっと、キャディ選手のつっつくが発動したぁああ!

:こーれーはえぐい!

:バード選手身動きを封じられて苦悶の表情だ!

:高速からの採掘アタックかな? えぐいコンボだしてきおって

:キツツキみたいな攻撃?

:鳥の要素と植物の要素が混ざるとこうなるのか

:テイマーの可能性が無限に広がるな


「さて、こっちはこっちで場外戦術だ」


:あーっと、さっきの範囲採掘スキルで落とし穴が掘られた!

:言うほど穴深くなくね?

:落とせないけど勢いは落ちるよ

:あー、突進攻撃を迎撃してくのか

:かーらーのー?

:ファー

:明後日の方向に玉が飛んでってで草

:お爺ちゃんどこ打ってんの?


 思いっきりダンジョンの天井に向かったボールは、チェインクリティカルの効果で跳ね返って勢いを増し、さらに壁に、地面へと何度も跳弾する。


:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:はぁあああああああああああ!?

:なんっじゃ、こりゃ!

:全然ファーでもなんでもない、これが狙いか!

:いつどこから襲ってくるかわからないボールが異次元の角度から襲ってくるとか恐怖でしかない

:絶対この人と一緒にいっちゃだめだ

:二次被害待ったなしなんだよ

:ペンギンがワンキルされてってるの草

:もしかして跳弾した回数で攻撃力上がってる?

:んなわけ……

:そして追加される第二打

:本人も危険なんだよなぁ

:コンドル君、流れ弾が当たって逝ったーーー

:ここまで見事な流れ


「からのー? キャディ、お願い」

「くわわ!」


:キャディちゃん、急に天井突き始めてどうしたの?

:ストライキかな?

:おいおいおいおい

:なんか画面揺れてね?


 ガガガガガガガガガッ

 キャディが天井を突くたび、ダンジョンが大きく揺れ動く。


:あーこれ

:やっちゃいましたね

:なに? これ何?


 ズズズズズズズズゥン

 ダンジョン全体が大きく揺れ、新しい通路が現れる。


「この様に、隠しスイッチ系はダンジョンの天井を掘ることで直接作動させることができるんですねぇ」


:凄いニコニコ口調で草

:絶対してやったりって顔してるよ

:キャディちゃんも楽しそう

:普通に戦犯クラスのやらかしだぞ?

:逆に探す時間を省けて良くね?

:考え方次第だよね


「こうやって進むと採掘ポイントが現れることがある。今回はなかったね、残念。代わりに新しいモンスターの登場だ」


:紫色の水晶に覆われてるコンドル?

:なんか禍々しいオーラ放ってね?

:絶対パワーアップバージョンだよこれ


「モンスター詳細を見るに、クリスタルバードらしい」

「ギピェエエエエエ!!」


:攻撃してきた!

:アイエエエエエエエ、雷? 雷ナンデ!?

:敵の強さがインフレしてて草

:天井に陣取ってて雷アタックとかクソ


「と、いってもやることは変わらないよ。キャディ!」

「くわわわ!」


:ここでも根を張る、採掘コンボか

:でも植物って電気通るくね?

:見た目動物系ぽいのにな

:いや、やっぱり電気効いてる!

:いやー! キャディちゃん!

:待て、よく見ろ。何かしてるぞ!

:首に巻いてるスカーフが膨らんで?

:花が咲いたぁ!


「ぐわわわわ!」


 キャディの新しいスキル『吸収』

 根を張るで吸い取った属性を自分のものにする特性塗り替えスキルだ。

 その為にも一度ダメージを受ける必要があるので、そう何度も扱えない


「くわわー」


:キャディちゃん何か投げた?

:なんか大きな木の実っぽい


 私はキャディから実った果実を頂く。

 新スキル『実る』は吸収によって吸い上げた『属性耐性』を短時間無効化するアイテムを生み出すものである。

 あの大きな葉っぱは、花を咲かせた先があったのだ。


「ありがとう、キャディ。一緒にやっつけるよ!」


:説明、だから説明!

:最初にコメントには返事はできないって説明あっただろ?

:俺たちはこの光景を黙って見てるしかないんや

:それよりお前ら、お爺ちゃんさっきから雷が直撃してるのに無傷じゃね?

:雷どころかボールも結構直撃してるんよ

:草

:自分には効かない攻撃だからって周囲を巻き込むなや!

:やってる事が自爆特攻なんだよなぁ


 無敵時間があって助かった。

 何度も直撃を喰らった様に、あのクリスタル付きの個体はある程度の属性に指向性を持たせられる様だね。


「ドロップアイテムは雷のクリスタル。調合、合成、付与に利用できるみたい。電気を蓄えてるから、もしかしたら充電にも役立てるのかな?」


:だとしたら今後に期待ですね

:あれを初見突破すんのは普通に強者なんだよ

:見た目も綺麗だからアクセサリーとしても欲しいかも

:アクセサリーになるのはジョブ持ちさんがいじり倒した後やろな

:問題は討伐できるかなんよ

:探索者さんの複数持ち帰りを期待してます(生産者一同)

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