第4話 vsレッドキャップ

 「久しぶりだね」


 レッドキャップの黄色い瞳が僕を射抜く。


 「そうだ、こっちだよ」


 逃げていく四人からレッドキャップの意識を自分へと向けさせる。


 「GraaGra!!」

 

 どう嬲ってやろうか、おおかたそんな考えを抱いているのだろうレッドキャップは下卑た笑みを浮かべて拳を握りしめてこちらに掛かってきた。

 最短の時間で最小の挙動で突き出された拳を、周囲の魔素を媒介にして作った壁で凌ぐ。

 見えない壁を前に動揺したのかレッドキャップの動作が一瞬止まる。

 本能的に基づく思考しか出来ないレッドキャップが、濃密な魔素の壁などという答えを出せるはずもなく戸惑いに動作は遅れた。


 「隙あり!!」


 護身用の剣を引き抜き魔力を纏わせ強化、それをレッドキャップの胸元に突き立てる。


 「Graaaaaaaaa!!」


 予想外の痛みにレッドキャップは悶えた。

 だが、生命力の高いレッドキャップはただの一突きでは死にはしない。

 それは想定済みで、次の一手を即座に放つ。

 剣先から溢れる紫電がレッドキャップの体内で暴れだし激しく痙攣するとその場に崩れ落ちた。

 痙攣しながら崩れたレッドキャップの死体は、傷口から徐々に体の組織が崩壊していく。

 

 「やっぱり人には見せられないや」


 使った魔法は【蠱毒ブラックウィドウ】、突き立てた剣はさしずめ毒針であり剣を媒介して注ぎ込んだ魔力は言うなれば壊死毒だった。

 

 「小僧、やっぱり心配で戻って来ちまった!!」


 後ろから声をかけてきたのは先程の剣士の男だった。


 「心配は要りませんよ?」

 

 そう言うと男は、僕の顔とレッドキャップの死体とを交互に見つめた。


 「これは小僧が倒したのか……?」


 男は信じれない、とでも言いたげな顔だった。

 その言葉からひとつ分かったことがある。

 それは男が僕の殺し方を見ていないということ。

 つまりは正体と魔法の属性が露呈せずに済んだということだった。


 「そうですよ」


 包み隠さずそう答えると男は僕の装備を見つめた。

 冒険者登録した日に買ったばかりの初心者向けの皮鎧、そして安っぽそうな剣が一本。

 とてもじゃないが、レッドキャップを倒した人間の装備には見えない。


 「……お金が無いのか?実力に装備が見合ってないな」


 男は貸してやるぞ?と言わんばかりだった。


 「何しろ昨日冒険者になったばかりでして……」


 そこまで言ったところで、一ついいことを思いついた。


 「出来れば、これを換金してきてその中から幾ばくかのお金を分けて欲しいんですけど……?」


 駆け出しの冒険者が倒していい相手でないということは、ギルドに換金しに行けば怪しまれるということに間違いない。

 それなら自分よりも冒険者等級が上の人間に頼めばいいのだ。


 「命を救ってくれた礼としちゃ、お易い御用だ」


 剣士はそう答えると右手を出した。


 「俺はアレクだ」

 「僕はただのリュカです」


 出された右手を握り返す。

 

 「ただのリュカ?面白い自己紹介だな」


 男はそう言うと笑いながら握った手をぶんぶんと振り回した。

 怪しむことなく接してくれる男の姿に僕は感じた。

 ようやく自分の物語がスタート地点に立った気がしたんだって――――――。


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