類友

 ミナルーシュが張り切って〔クエスト〕を回し、敵を山ほど討伐して経験値を稼いだお陰で、三人は一時間もかからずにそれぞれの〔ルーツ〕のレベルを10まで上げることができた。

 それでさっそく、〔箱庭〕に戻ってきて新しい〔ルーツ〕を取得する。

「お、これか」

 その中でミナルーシュは、〔奴隷〕が10レベルになった時に解放アナウンスが入った〔ルーツ〕を一覧から探し出していた。

 それは最初から解放されている〔ベースルーツ〕よりも上位になる〔エキスパートルーツ〕の〔反逆者Rebellion〕だ。その解放条件は『〔反逆の烙印〕を取得している状態でレベル10以上の〔奴隷〕を昇華する』ことになっている。

「なるほど、特定アイテムを持っている時に解放されるレア〔ルーツ〕ってわけね」

 条件を見れば珍しい〔ルーツ〕なのがわかって、ミナルーシュはにやにやとほくそ笑む。

 〔能力値〕も〔魔力補正値〕も〔ベースルーツ〕より合計値が多く、〔スキル〕も〔奴隷〕の〔スキル〕によるデメリットを一時的に打ち消すものがある。

 こんないい〔ルーツ〕があってミナルーシュが取得しないわけがない。それが〔ベースルーツ〕よりも多くのリソースを要求されて、特にAPは稼いだ分がほぼなくなるのだとしてもだ。

「よし、あたしは〔反逆者〕になったぞー!」

「クシャナ、あのバカはたったの一時間で反抗してくるつもりらしいよ」

「ミナルーシュの面倒見るの大変だから、自立してくれるのはとても喜ばしい」

「え、やだやだ! あたしはまだまだクシャナに面倒見てもらうんだからー! おいしいごはんー! 宿題の写しー! かわいいの補充ー!」

 いくら〔箱庭〕で他に人がいないとは言っても、大声でどうしようもないことを大声で叫ぶミナルーシュに、クシャナは白い目を向ける。

「ミナの友達辞めるなら今の内だと思うけど」

「ちょっと真剣に検討しておく」

「え、なんで!?」

 ルゥジゥからの助言をクシャナが神妙な顔つきで受け止めるのを、ミナルーシュは心外だと叫ぶが、どこにも理不尽なところはない。

「てか、クシャナなに抱いてるの? 卵?」

 しかし叫んでおいてすぐにミナルーシュは目に留まった物に自分から話をすり替える。

 クシャナの肩に乗るイナバも、ご主人が腕の中に抱えている真っ白で大きな卵に興味津々と視線を注ぎ、ぴくぴくとひげを跳ねさせている。

「うん、〔魔物の卵〕だって。モンスターが生まれてくるみたい」

「〔使役者〕の〔スキル〕?」

「ううん、〔アイテム〕……」

 クシャナはミナルーシュの質問への返答が尻すぼみになった。

 〔魔物の卵〕が使い捨ての〔アイテム〕であるのは、説明をきちんと確認しているからそこに不安があるのではない。

 クシャナの言葉がすり減ったのは、〔スキル〕と聞いて一つ思い付くことがあったからだ。

 クシャナはつるりとした〔魔物の卵〕にじっと視線を落とす。

〔魔女のはら

 試しにクシャナがその気になった〔スキル〕を宣言すると、〔魔物の卵〕はしゅるりと三人と一匹が見ている前から消えてしまった。

「え、消えたよ!?」

 手品に見たかのようにミナルーシュが目を丸くする。

 その一方でルゥジゥは見てはいたもの特に興味はなさそうで顔色が一つも変わらない。

「あ、うん。妊娠した」

「にんしん」

 突飛なことを真顔で言ってくるクシャナにミナルーシュはオウム返ししかできない。

 そしてルゥジゥは納得がいったとばかりにうなずいている。

「ああ、そういやそんな〔スキル〕だって最初に言ってたね。卵をそのまま宿せるんだね」

 そう、クシャナはちゃんと〔魔女〕を選んだ理由として最初に二人に伝えていた。『子供を妊娠出来るってあったから』と。

 自分のお腹をなでて体型を確かめるクシャナは、見た目では特に変化がわからない。あんな大きな卵がすっぽり入ったとはとても信じられない。

 クシャナは細く息を吸いこんだ。

〈高く高く

 青く青く

 透き通るあの大空に

 想いを馳せるの

 夢を描いて〉

 クシャナの歌声がそれこそ青空へと飛び立つように伸びやかに〔詠唱〕した。

 その〔魔術〕はクシャナの胎に納まった〔魔物の卵〕へと届き、食後のように彼女のお腹をふくらませた。

 それを見たミナルーシュがそっとクシャナのお腹に手を置いた。

「これが、あたしたちのこども……」

「いや、ミナルーシュの子どもではない」

「生まれてくるのモンスターなのにミナは自分の子供にしたいのか」

 ミナルーシュのセクハラに近いボケに、クシャナとルゥジゥからそれぞれに鋭いツッコミが入る。

「なんだよー! 連れ子だって愛情持ってる親はいるだろー!」

「そうだけど、そうじゃないから」

「ミナ、男だったらアウトな発言だからな?」

 両手の拳を振り上げて抗議するミナルーシュだけど、そんな話を引きずるだけでクシャナとルゥジゥからの評価は順調に下がっていく。

 イナバもやれやれと体を横に揺すって呆れ顔だ。

「もー、なんだよー。……クシャナ、これ、いつ生まれるの?」

「さぁ?」

 〔魔術〕を使って誕生へと近付いた実感はあるけれど、初めてなのでどこまでいったら生まれるのかというのがまだわからない。

「まぁ、いいか。で、ルゥジゥも新しい〔ルーツ〕取ったよね?」

「このタイミングでこっちに話が来るのか。〔役者Actor〕を選んだよ」

 これ以上聞いても話が進展しないと思ったのか、ミナルーシュはぐりんとルゥジゥに首を巡らせた。

「〔役者〕?」

 クシャナはルゥジゥが音楽以外の要素を取ったのが不思議で頭の上にはてなを浮かべる。

 ルゥジゥのことだから、他のものなんていらないと〔奏者〕を重ねるんじゃないかと思ってたのだ。

「そう。ほら、演じるって人格切り替えるような〔スキル〕ありそうじゃないか」

「……おまえ、そこまでして面倒事をシャラに押し付けたいのか」

 どこまでも突き抜けたルゥジゥのものぐさにミナルーシュはあきれ果てる。

 しかもルゥジゥにとっての面倒事は、『歩く事』さえ含まれている。日本琵琶は座って抱えていないと演奏できないからだ。

「いや、二人とも自由か」

「ミナルーシュに言われたくない」

「ミナは人のこと言えないだろ」

 そろそろイナバもこの三人にはとても似たところがあるのに気付いているかもしれない。

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