第6-1プラン:関係者向け試食会の開催

 

 その後、無事にソフィアを売り子として勧誘することに成功し、商店街の魔法印刷屋さんにチラシやポスターの発注も終わった。サンドイッチの包装材もすでに雑貨屋さんから納入されている。


 もちろん、店舗の改装も終わっているし、開店日から1週間は商店街全体で記念セールを開くことも決定している。残っているのは販売する商品の最終確認。要するに関係者向けの試食会だ。


 サラやザック、店長とは何度も味の調整や具材の組み合わせを試し、シャインさんやランクさん、サラのご両親など使用する食材に関わる人たちとは意見交換をしてきた。すでに納入してもらう商品のスペックは確定済み。いずれも抜かりはない。


 組合会館で行われる今回の試食会には、商店街の皆さんを始めシャオさんやフォレス先輩、ルティス先輩などが参加してくれている。


「まずはメニューの一部をご紹介します。メインとなるのはコロッケサンド。ほかにはカツサンド、メンチカツサンド、カラ揚げサンド、フィッシュサンド、タマゴサンド、ミックスサンド、サラダサンド、フルーツサンドなどです」


 私は目の前のテーブルに陳列された数種類のサンドイッチを皆さんへ指し示した。


 サンドイッチはナイフで切り分けられていて、その隙間から一目で中身を確認することが出来る。やっぱりこうして中が見えると美味しそうに映るし、小分けにしてあるから手に取って食べやすい。


 また、その横にはメニューが書かれたチラシが置いてあり、そこには価格や写真、商品説明などを記載。これにサービスクーポンを付けたものを、開店からしばらくは商品と一緒に配る予定だ。


 ちなみに定期船の発着場で販売する商品には本店の位置が描かれた地図を付けるなど、改訂を加えたチラシとなっている。今回はここに持ってきていないけど。


「たくさん用意していますので、どうぞ遠慮なくお召し上がりください。お持ち帰りもご自由にどうぞ。食事代が1回分くらい浮きますよーっ!」


 私のその言葉に会場から大きな笑いが巻き起こる。それを皮切りに参加者の皆さんはテーブルに歩み寄ってきて、思い思いにサンドイッチへ手を伸ばしていった。もちろん、食べるだけではなくて、商品の外見を確認したり匂いを嗅いだり、チラシを受け取ってそれに目を通したりしている人もいる。


 いずれにしても、反応はおおむね上々といった感じだろう。目の前のサンドイッチがどんどんなくなっていくのがなによりの証拠だ。


 私は振り返り、後ろで作業しているザックとサラ、それに店長に声をかける。


「ザック、サラ。どんどん追加で作っちゃっていいからね。材料がなくなるくらいにやっちゃって。店長、コロッケを丸める手が止まってますよっ!」


 それに対して3人は苦笑しながら一心不乱に作業を続ける。



 ――実は私たちはデモンストレーションとして、その場でコロッケの調理や野菜の加工、それらをパンに挟む作業なども披露しているのだ。


 でもこれだけ好評だと、私も手伝いに入らないと作り置きがあっという間になくなりそうな気がする。デモンストレーションのつもりが本格的に補充をしないと追いつかないなんて、これは嬉しい悲鳴だ。


「ねぇ、ソフィア。サンプルの配布を任せちゃっていい? 私もサンドイッチを作る作業へ回るから」


「OK。こっちは私に任せてっ」


 私の横に立って配布を手伝ってくれているソフィアは、ウインクをして答えた。


 今回は販売員の練習も兼ねて彼女が配る作業の手伝いをしに来てくれている。この状況を考えるとそのおかげで助かった。私たちだけじゃ手が全然足りないから。


 ソフィアは私と同い年で、髪は黄金色のクセっ毛をポニーテールにしている。目はパッチリ、肌は白く透き通っていて絹のように美しい。しかも明るい性格で常に前向き。裏表がなくて友達想いの良い子だ。


 出身は隣国のファナイン帝国で、実家はレイナ川右岸の先にある国境を過ぎてすぐの場所らしい。そこに小さな領地を持つ男爵家とのこと。


 彼女は私がパンに具材を挟む作業に入るのを見ると、私の分まで気合いが入ったように笑顔で声を張り上げる。


「さぁ、メインのコロッケサンドはいかがですかっ?」


「おぅ、ひとつくれや。美人のお嬢ちゃん」


 早速、乾物屋さんのおじさんがソフィアに話しかける。


 すると彼女はテーブルからコロッケサンドをひとつ手に取り、屈託のない笑顔でそれを優しく手渡す。親しみを感じさせると同時に、思わず見とれてしまうような可愛らしさ。あれは反則だわ……。


「開店後は皆さんも気軽に買いに来てくださいねっ。私、店頭でこうして売り子をしていますからっ」


 乾物屋さんのおじさんはもちろん、周りにいた男性の多くはデレッと鼻の下を伸ばしていた。すっかりソフィアの魅力の虜だ。私も男子だったら心が揺れていると思う。



 ……ううん、同性である今でさえドキッとしちゃうくらいだし、ふたりっきりの時に迫られたら堕ちちゃうかも。そういう禁断の道に踏み入れないように気を付けなきゃ。



(つづく……)

 

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