第1-5プラン:セレーナの決意!

 

 この時点で私の決意はもはや固まっていた。と、同時に頭の中では様々な計算や想定などが光の速さで飛び交い始める。


「セレーナさん?」


「サラ、本気で総合商店と戦う意思はある? もちろん、それには大きなリスクも伴うと思う。でももしその気があるなら、私が商店街に活気を取り戻してみせる」


「っ!? そ、そんなことが可能なんですかっ?」


「確実に言えるのは、私だけじゃ無理ってこと。まずはサラ。そして商店街のみんなが協力してくれるようになれば、一矢報いることが出来るはず。もっとも、現時点では何の保証もないから、私を信じてもらうしかないけどね」


 私が真っ直ぐ彼女の顔を見つめると、サラは視線をやや左下へ逸らして難しい表情をした。そのまましばらく口を噤み、考え込んでしまう。



 …………。


 その場に流れる沈黙。でもやがて彼女は真顔になって私を見つめ返してくる。その瞳には意志の輝きと強さが見て取れる。


「もう少し考えさせてください。即答は出来かねますので」


「うん、もちろん。でもそんなに猶予はないと思って。時間が経てば経つほど、反転攻勢できる可能性が低くなっていくから。だから……そう、明日の日没までに返事を聴かせてもらおうかな。私もそれまでに計画を詰めてみる」


「分かりました」


「ん、OKっ。――じゃ、とりあえずはサラのご両親が使う胃薬と睡眠薬を処方しておこっか。ねっ?」


 私は一転して相好を崩し、目顔でサラに合図を送った。すると最初はキョトンとしていた彼女も不意にプッと吹き出して、手を口に当てながら肩を震わせて笑う。


「はいっ、そうですねっ!」


 その後、サラは私の用意した薬を受け取ると、柔らかな笑顔で店を出ていった。出入口のドアを閉める際にはこちらへ振り返り、小さく手を振るくらいまで心は落ち着きと穏やかさを取り戻している。これで一時的にはひと安心かな。


 私は目を細めつつカウンターで手を振り返し、その姿を見送る。こうして店内はいつもの静けさを取り戻す。


 直後、傍らで私たちの様子を見ていた店長が神妙な面持ちで声をかけてくる。


「セレーナちゃん、ぜひワシもキミたちに協力させてほしい。この商店街が廃れてしまうのは寂しいからね」


「やっぱりさっきの話は聞こえちゃってましたか。もちろん店長のその気持ちは嬉しいですけど、少し気が早いですよ。まだサラの返事を聞いていないんですから」


「サラちゃんはすでに戦うことに決めていると思うよ。大切なものを守るためなら、強い意志を持って全力で立ち向かう子だからね。それはセレーナちゃんも分かっているのだろう? だからこそ、あえて彼女に考える時間を与えた。わずかに残っている迷いを自分で完全に断ち切らせるために」


「……ふふっ、さすが店長ですね。年の功ってヤツかなぁ」


「それにもしサラちゃん抜きになったとしても、セレーナちゃんは戦う気なのだろう?」


 その問いかけに、私は激しく動揺して一瞬だけど沈黙してしまった。だってそこまで心を見透かされているとは思わなかったから。


 私はそれを悟られないよう平静を保ち、必死に笑顔を作って皮肉っぽく言い放つ。


「そんな火中の栗を拾うようなことしませんよ。私、そこまで愚かじゃありませんので」


「そうかね? まぁ、そういうことにしておこう。それでワシは具体的に何をすればいいかね?」


「色々とありますけど、まずはお店の金庫の内部スペースを少しお借りできますか? 資金を調達したらそこで保管しておきたいので」


「それならお安いご用さ。セレーナちゃんはすでにうちの金庫番もしていて、そのついでのようなものだしね。カギの場所も暗証番号も分かっているわけだし」


 ふたつ返事で了承してくれる店長。このお店の金庫は巨大で重量もあって、しかも魔法や衝撃にも強いミスリル特殊鋼で出来ているからそれを使わせてもらえるのはありがたい。これを第三者が盗み出したり破壊したりするのは容易じゃない。


「ありがとうございます。計画の細かい部分はこれから詰めていこうと考えているので、そのほかのことについてはまた後日ということで。――あっ、とりあえず店長には近いうちに商店街加盟店組合の臨時会合を招集してもらおうとは思ってます」


「分かった。そのつもりでいるよ」


「それとしばらくはバイトをお休みさせてもらうことが多くなるかもしれません。今日ももう上がらせてもらえませんか? やれることは少しでも早くやっておきたいんです。お願いします!」


 私は深々と頭を下げて懇願した。ダメで元々だけど、どんなことでもまずは試してみるのが大事。それでダメなら次の一手を打てばいい。


 こうしてそのままの姿勢で私が返事を待っていると、少しの間が空いてから店長は悩ましい声を漏らす。


「うーむ、セレーナちゃんを失うのは痛いが、それも一時の我慢か……。それに恩を売っておくのも後々のことを考えたら悪くないしね。良かろう、精一杯頑張りなさい」


「ありがとうございますっ! ――っていうか、私に恩を売っても大したリターンはないですよ? それじゃ、出かけてきます」


「いってらっしゃい!」


 私は店長に見送られ、意気揚々と店を出る。


 早速、反転攻勢のための布石をどんどん打っていこう。やることはたくさんあるけど、まずは『彼』の協力と商品品質の比較、そして運営資金調達のために色々と動いてみますかっ!



(つづく……)

 

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