第10話 居場所


家を飛び出したまま…行く宛てのない私はそれから7日間、美月さんとマサトと3人でこの家で過ごした。



私も少しずつ、自分の家の事や…あの日何があったのかを話せるようになっていた。



美月さんはマサトのお姉さんで20歳、運送会社の事務員をしていると言った。


マサトはパチンコ店で働いていると教えてくれた。


トモヤはマサトと同じ店で働いていて、仕事帰りにマサトの家に出入りしているらしかった。


あの日の夜、橋の上で立ち尽くしていた私を拾った時も、マサトとトモヤは仕事が終わり、店から自宅に帰る途中だったらしい。



私が朝起きると

美月さんはもう会社に行っていて不在だったけれど、リビングのテーブルの上には私とマサトの分の朝食が用意されていた。



マサトが仕事の日は、2人で朝食をとったあとお昼前に出掛けていくのを見送り、私は家の中の掃除をしたりテレビを見たりして過ごしていた。



マサトが休みの日は、美月さんに頼まれている食材の買い出しに行ったり、気分転換に遊びに行こうと車で出かけたりした。



産まれてからずっと

彼らのいるあの家の中だけしか知らなかった私には…

見るもの全て、まるで別の世界がそこにあるかのように見えていた。




マサトはいつも私に優しかった。



『 まい?何考えてるのー?どした? 』



『 ううん…何にも考えてないよ? 』



そう答えて私はクスっと少し笑う。



『 まいってさ、親にそんなことされて悲しくねーの?泣かねーの? 』



そう聞くマサトに



『 悲しくないよ?そんなのもう慣れたし泣かないよ?泣いたって余計殴られるだけだもん! 』



私はまたクスっと笑って答えた。



『 まいってさ、そーやって強がりばっか言うけど、ホント泣いてるみたいに笑うのな? 』



マサトはそう言いうと私の髪の毛を優しく撫でてからこう言った。



『 まい、1回家に帰りな?このままずっと帰さないわけにいかねーだろ。親に酷いことされたらまたいつ来てもいーからさ? 』



マサトはそう言うと、携帯番号の書いたメモを私に渡した。




『 うん、わかった…。今日の夜、美月さんにお礼言ってから帰る 』




本当は帰りたくなんてなかった。



出来ることならもうずっと、あんな所に帰りたくなんてなかった。




でも…。



私が家を飛び出して1週間…

彼らが私のことを探す気なんてないのはわかってるけど…



私は、あの家に1人残してきた妹のことが心配だった。



私が居なくなって

妹が1人でどんな目に遭わされているのか…それが1番気がかりだった。




夜になり

美月さんが作ってくれた夕食を食べたあと私がお礼を言うと



『 またおいで?マサトに連絡すれば迎えに行くからね?あとこれ…帰ったら妹さんと食べて? 』



そう言って、私におにぎりを3個握って持たせてくれた。




マサトの車に乗ると、なんだかすごく寂しくて泣きそうになるのを…私はグッと堪えた。



今ここで泣いてしまったら、本当に帰れなくなりそうで…。




初めて私が心から笑えた場所だった。




家族ってこういうものなんだって私に教えてくれた場所だった。




私はずっと『 私の居場所 』を探していたんだね。




この頃も、そして今(現在)も…。



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