ゲーミング徹甲弾

 六層に到達すると私にも悲鳴が聞こえた。


そのまま悲鳴の聞こえる方に走る。そこには大勢の魔物に囲まれているパーティーがいた。装備の質や連携の甘さを見るにかなり下級のパーティーだろう。おそらくは、調子に乗って六層まで降りて六層の魔物一匹を囲んで撃破できたことで図に乗り奥まで踏み込んで包囲されてしまったのだろう。下級パーティーあるあるだ。タンクや戦士などがなんとか前線を作って後方要員を守っているが、明らかに戦線は崩壊寸前だ。


「イリーナさん!なんとかできますか?」


「わかってる。タンクの誘導スキルを使う。」


「お願いします。」レオンは頷いて魔導具を取り出す。これは大きな音を出す魔導具だ。


「でも…」私は付け足す。


「なんですか?」


「笑わないでね。」


「笑う?笑わないですよ!」レオンは力強く頷く。




「こっちを向け魔物共!」レオンはそう叫ぶと魔導具を使う。甲高い不快な音が鳴り魔獣はこちらを向く。


「今です!」


「わかった!」私はスキルを発動する。


スキルにより私の体は虹色に発光する。派手に発光することで敵の気を引くそういうスキルだ。


七色に光姿はまさにゲーミングタンクだ。


ふとレオンの方を見る。彼は後ろを向いて肩を震わせていた。


ほらね!言わんこっちゃない!私は心の中で叫んだ。




だが、魔物たちはこちらへ襲いかかってきた。上手く釣れた。


「イリーナさん!万歳の姿勢で硬化してください!」


あっ、こいつリーチを伸ばして武器にする気だ。でもまあ、不本意だが今回は下級パーティーの命がかかっているので仕方ない。私は言われた通り硬化する。


「じゃあ失礼して。」レオンはそう言うと私の足を掴んでぶん回す。


魔物たちはなすすべなく私に吹き飛ばされアイテムを残して消滅する。




「あと二体!」レオンはそのまま突貫して私の指先で魔物の体勢を崩すと大きく振りかぶって叩き潰す。




「あと一体!」レオンは私を横に振りかぶる。そして勢いよく横凪に…


「あっ」レオンが呟く。


あっ?何?と思った瞬間私は予想だにしない方向にすっ飛んでいった。


「ごめんなさい!手が滑りました!」


滑らしてんじゃねえ!と考えながら、凄まじい強度とそこそこの質量の私はダンジョンの壁に突き刺さった。




ザクザクと肉を斬る音が聞こえる。皆大丈夫かなと考えながら私は壁に刺さっていた。




「ふう、危なかった。いい剣買っといて良かった。」レオンの声が聞こえる。どうやらなんとかなったようだ。よかった。


「イリーナさん、ごめんなさい。今抜きますから!」そう言ってレオンは私の足を掴んで引っ張る。


「あれ?抜けないな。」


え?抜けないの?




「え?ちょっと、すごい出血じゃないか!」


え?誰がレオンが?下級パーティーが?




「それじゃあ止血できてない。ちょっと貸して!」


男の呻き声が聞こえる。


「大丈夫。大丈夫。傷は浅いよ。かならず助かるから。」


「イリーナさん、ちょっと待っててくださいね。これが終わったら抜きますから。」




「うーん、結構まずいかも。ここで応急処置をしよう。」


「助かりますか?」


「大丈夫。助かる。任せて。」




蚊帳の外である。私も応急処置はできるのだが。


「ちょっと暗いな。イリーナさん。普通に光れますか?」


普通に光るってなんだよ。そう思いながら普通に光る。緊急事態なので仕方ない。


「ありがとうございます!」


下級パーティーの皆からも口々に礼の言葉が飛んでくる。治療されている男も苦しそうに礼を言う。お前は喋るな。




しばらくして私は壁から引き抜かれた。


「すいません。簡単には抜けなくて。」


「いいのよ。命が助かったならそれでいいの。」実際に、私の小さなプライドよりも彼らの命の方が大切だ。




「それにしても、あなた達なんでこんなところに?」私は尋ねる。


「それが、五層の魔物を安定して狩れるようになったので六層もいけるかと思って来たんです。それで、六層でもそこそこ安定して魔物を狩れたのでここまで進んだんですけど、マルクが負傷して立ち往生したから囲まれたんです。」魔術師の少女が俯きながら説明する。


「やっぱりね。習わなかったの?”5は危険だ”って。ダンジョンは五層周辺ごとに危険度が跳ね上がる。だからしっかりと装備と情報を揃えて万全の準備を整えて挑まないと。今回は私たちがいたからいいけど、毎回そう上手く助かるわけじゃないんだからね。それに、仲間を置き去りにしない覚悟があるなら応急処置くらいちゃんとできるようになりなさい。」私は冒険者の先輩として叱る。


「はい。」下級パーティーの皆は不服そうに返事をする。


ちょっとまって?なんでこんなに不服そうなの?確かに注意はしたが、そんな目で見られるほど強い口調で言ったわけではない。解せないなと思っているとレオンが口を開く。


「そうだよ。僕のパーティーでも昔15層で仲間が一人死んだんだ。だから細心の注意を払わなきゃね。」レオンが優しく言う。


下級パーティーの面々も心底反省した顔で頷く。


やはり解せない。なんだこの扱いの差は。そもそも私の方が年上だし先輩だしステータスカンストだし50層まで潜ったし私からのアドバイスの方が有用なはずだ。身長は低いけど。


不貞腐れながらふと自分が刺さっていた壁を見る。


その瞬間私は全てを察した。彼らから見れば、私はいきなり大きな音がしたかと思うと七色に光だしレオンのフルスイングで壁に突き刺さりいきなり光出して照明がわりになっただけの女だ。


私だって同じ状況でゲーミング徹甲弾に偉そうなことを言われたらそんな顔になる。




「まあ、助かってよかったね。以後気をつけてね。」私は笑顔で彼らを激励する。彼らから見た立場相応の対応だ。

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