第19話 色気な先輩

テストが返されて一輝は一段落していた。

なんとか赤点ギリギリで耐えたのだ。

敦は数学の赤点を取ってしまった。

本来ならラグビー部での赤点は叱責ものだ。

監督は無言の圧力で赤点者を補修させていた。

他の生徒は担当の教師の方が補修を受けさせるがラグビー部だけ監督直々に鬼のような補修を受けさせるのがこの学校の話題だ。

できるまで出して貰えないこともしばしば...


この日の練習は気晴らしに談笑することができる。

伊沼「おおー、一輝。補修引っ掛かんなくて良かったな。」

一輝「全くだよ、でも敦君が補修なんて珍しい」

伊沼「だよなー、一番できるのに不思議だよな。他は、大友、猪木に鴨川とか宇佐美とか多いな」

一輝「結構引っ掛かってるんだね。でも僕はギリギリだったからなんとも言えないよ!」

二人は笑い合った。

井宮「よぉ、お二人さん。テスト返されて湿気ってる雰囲気だから朗報持ってきたぜ」


伊沼「なんだよ、朗報って」

井宮「おい、マネージャー見てみ?めっちゃ可愛くね」

伊沼「確かに、てか全員いるの凄いな」

井宮「中でも3年の牧先輩は学年トップの主席だぜ。おまけにボインでナイスバディからのTHEお姉さんキャラ」

伊沼「た、確かに。練習キツかったから気にしなかったけどまじで美人過ぎる。なぁ一輝」

一輝「へ?あ、そうだね。皆可愛いよ」

井宮「はーん、お前さては女慣れしてない面だな」

一輝「ば、バカ言うなよ。僕だって彼女の1人や2人くらい...」

伊沼「ギャハハ図星でやーんの!彼女できたことないだろー」

一輝「う、うるさい!これからモテるんじゃ!」

進藤コーチ「おい、そこ騒がしいぞ!ちゃんと練習しろー」

伊沼「ちっ、顔がいいだけのコーチがよ...」

一同「はーい!」


軽く3on3のメニューをこなした。

マネージャー達がいつもボトルに水を入れて用意してくれている。

岡本先輩「ふぅー、疲れたな」

飯沼先輩「だな、でも今日は楽やなー」

飯沼先輩は4番で岡本先輩と仲がいい同期だ。

一輝「はぁ、はぁ、ふぅ」

牧先輩「はい、どうぞ」

一輝「あ、ありがとうございます...」

一輝はドキドキしながらボトルを受け取った。

牧先輩「どうしたの?息が粗いけど体調悪いの?」

一輝「いえ!全然大丈夫です!!」

伊沼「バーカ、お前なにニヤニヤしてんだよ。おい、よく見たられいかちゃんも可愛くね?」

れいかちゃんとは一年マネージャーの霧島れいかという名だ。清楚で凛としていてどこか美しい感じの女の子だ。

一輝「う、うるさい。練習に集中しろ!」

伊沼「とか言って~、興奮すんなよ笑」


休憩が終わりタックル練習に移った。

一輝「岡本先輩お願いします!!」

岡本「おう、さぁこい」

一輝「はい!!」

バチ!ズザザザッ!バチ!

すると岡本先輩が珍しく足を挫く形でこけてしまった。

変に倒れて一輝の腕が地面にえぐられる形になった。

一輝「いたたたたっ、先輩痛いっす」

岡本先輩「わりぃ、すまん。すぐどく。てか腕大丈夫か?」

一輝「すいません、洗ってきます」

岡本「おい、血が出てるだろ。マネージャーにテーピングして貰え」

一輝「は、はい」

同期二人がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

一輝の心の声「あいつらー、後で覚えてろよ」


一輝「あ、すいません。腕怪我しちゃったのでテーピングお願いします」

牧先輩「あら、一輝君。まず、そこで腕洗ってきてね」

一輝「は、はい!」

牧先輩は突然の大きな返事に少し驚いた。

一輝はすぐに腕の砂を洗い落とし牧先輩が用意したタオルで拭いた。

牧先輩「そこに座って」優しい声で誘導してくれた。

一輝は座り牧先輩はしゃがむような形で上から見下ろしていた。

一輝は怪我をした腕を差しだしドキドキが止まらなかった。

牧先輩は手慣れた様子で優しく巻いてくれた。

牧先輩「一輝君、痛くない?痛かったらすぐに言ってね」

一輝「い、痛くないです」

気付かないうちに巻き終わっていた。

牧先輩「じゃ、練習頑張ってね」


一輝は人生で一番走りが早くなった。



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