それは起源へ至る物語
——『Origin Re:Verse Online』。
プレイヤーは、記憶を持たない主人公『オリジン』となって世界中を巡り、過去、現在、未来——元始からのあらゆる事象、概念、想念が刻まれた起源にして終焉の座標『アカシア』を探し出す……っていうのが大まかな目的だ。
去年の秋頃に発売され、サービス開始から一ヶ月を待たずしてプレイヤー人口、最大接続人数の歴代記録を余裕で塗り替えた文句のつけようのないMMORPG史上最高傑作だ。
とはいえ、ぶっちゃけ従来のMMORPGと比べて、何か画期的な要素があるかというとそうではないらしい。
じゃあ、なんでこんなぶっ飛んだ記録を打ち立てたかのか。
答えは単純、他と比べてシンプルにクオリティが桁違いに高いからだ。
グラフィック、戦闘、システム、ストーリー。
どれをとっても完成度が頭二つ分は抜けているとのことだ。
だからこそ新規が参入しやすく、経験者はよりのめり込める。
シンプルイズベストを地で行くっていうのは、きっとこういうことを言うんだろうな。
一応、このゲームの特徴を挙げるとすれば、ゲーム開始地点が一つではないってことか。
プレイヤーは七つある国のいずれかを選んで、そこから冒険を始める。
だから人によってゲームの攻略過程はかなり異なるものになるし、そのようにしてもちゃんとゲームが成立する自由度の高さが大衆に刺さったのかもしれない。
そんなこんなで、帰りに琴音の家に立ち寄りオリヴァを受け取って帰宅した後、夕飯と風呂を速攻で済ましてから俺はVRギアを立ち上げる。
「VRゲーをやるのなんていつ振りだろうな」
最後にやったのは確か……三ヶ月前とかそこらか。
遊んだゲームは、様々な武器で魔物を狩猟するアクション系RPGだ。
一時期、琴音とアホみたいにやり込んで、裏ボスをノーダメでボコしたのは憶えている。
まあ、それを最後にパッタリとやらなくなったけど。
今回もきっとそのパターンだろうな。
とりあえず一ヶ月続けば御の字って言ったところだろう。
「……ま、さっさと始めるか」
VRギアを装着し、俺は意識を電脳の世界へ沈めていく。
「なるほど……確かにこれは人気になるのも納得だわ」
ゲームを開始し、早速出現したキャラメイク用のウィンドウの中身を見て、その自由度の高さに感服する。
人種、体格、髪型、アクセサリー……etc.
どれもが事細かに設定することができ、意識して真似しない限りはまず見た目が被ることはないだろう。
唯一、性別だけは変えられず、声も自身のものが投影される為、完全なネカマプレイは出来ないみたいだが、逆に男の娘とかのロールプレイとかは捗りそうだな。
やんねえけど。
「しかしまあ、こう余りにも自由度が高過ぎると、逆に何から手をつけりゃいいのか分からなくなるよな。……とりあえず現実の体とリンクさせたやつにしとくか」
アバターの容姿にこれといった拘りはないし、体格に関しては現実と一致させておきたい派だ。
体格を大きく変えたとしてもシステムが調整してくれるから、どちらの動きにも支障に出ることは無いが、単純に気分の問題だ。
「顔はどうすっかな……うーん、弄るの面倒だからこのままでいいや。でも、髪型と髪色だけは変えておこう」
というか、ここだけちょっとガチる。
一つやってみたい髪型があるしな。
まず髪色はアッシュが混じった黒——光に反射すれば、青みがかった灰色に見えるようにする。
シルエットは、ちょい長めの襟足に全体的に外ハネ気味の緩いツイストパーマ風。
それから前髪は重めにして長さを若干目が隠れるくらいにすれば、バンドマンっぽい髪型(※完全な偏見)の完成だ。
これ以上はヴィジュアル系になりそうだから、この程度で抑えておこう。
「ざっとこんなもんか」
リアルじゃ校則という名の呪縛と、パーマ&カラーの髪めちゃくちゃ痛むコンボのせいで試そうにも試せなかったから、丁度いい機会だった。
それにゲーム内ならいくら失敗しようが、いくらでも修正が利くおまけ付きだ。
ここまで思い通りに再現できるキャラメイクの自由度の高さに感謝だな。
「さてと、次は……ジョブとパラメーターの設定か」
どうやらここでジョブと適正武器、それと初期パラメーターの配分を決めるらしい。
MMOをやるのはこれが初めてだから分からんが、パラメーターってある程度自分で弄れるもんなんだな。
それともオリヴァが特別なだけか。
……別にどっちでもいいか。
「とりあえずジョブは音楽士で確定として、適正武器は鍵、管、弦、打……想像してたよりもマジの楽器じゃん」
カテゴリの分け方はちょっと雑だけど。
つーか"打"ってなんだよ。
他三つはなんとなく想像がつくけど、これだけどんな武器なのかマジでイメージがつかねえ。
勿論、打楽器っていうのは分かるけど、意外と種類あるからな。
太鼓系とか金物系とかみたいな感じに。
「……けど、こいつを選ばなきゃなんだよなあ」
俺の得意な楽器は打楽器……っていうかドラムだし。
仕方ねえ、これで行くか。
意を決して、適正武器”打”を選択。
すると、目の前に幾つかの武器……いや、楽器のホログラムが出現した。
「あ、カテゴリ内で更に細分化されてんのか。……なるほど、そういうことか」
目の前にあるのは、少しファンタジーっぽいデザインをしているがタンバリン、シンバル、バチの三つだ。
一応、武器として使えなくもない……のか?
「この中で選ぶとなると、そうだな——バチ、になるか」
打撃専用の短剣二刀流と考えれば、なんとなく戦闘方法が思い浮かぶ。
というわけで、適正武器はバチに決定。
設定は次の項目、パラメーター配分に移る。
「こっちは特に何も考えなくていいな」
とりあえず
本当なら極振りなんて愚の骨頂だけど、真面目に攻略するわけでもないし、寧ろ楽器演奏をメインにするならこっちの方が都合がいいまである。
細かな動きの精度が上がるだろうからな。
パワーが欲しくなったらその都度
「よし、オッケー。次でラスト……プレイヤーネームの設定か。これもいつも通りでいいな」
出現したキーボードに名前を入力していく。
俺の本名——
安直ではあるが、まあプレイヤーネームなんてこんなもんだろう。
最後に決定ボタンをタップしてキャラメイク完了だ。
これであとはゲーム世界に——、
「……って、そうだった。初期の開始地点も選ばなきゃだったか」
琴音には、【平原の国】を選べって言われている。
どうやら、そこが一番初期スポーンに選ばれているらしい。
まあ、名前的にもザ・無難って感じがするしな。
「さてと、それじゃあ行くとするか……!」
今度こそキャラメイク完了。
最終決定のボタンをタップして、俺の身体は足元から発生した白い光に包まれた。
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