006.目標決定

「それじゃあまずはできることの把握からはじめようか」


「わかりましたわ」


「まず、ダンジョンの階層を増やす条件ってどんな感じ?」


「現在の一層の下に二層を追加するには、魔力で2万ほど必要になりますわね」


「三層だと3万?」


「左様ですわ。ちなみにこれはダンジョンを覆う結界の拡張をするために必要な魔力となりますわ」


「結界なんてあるんだ」


「結界によって内外の行動を処断することによって、ダンジョンの外側から穴を掘って侵入する、というような手段を防ぐものですわね。更に、内部の壁部分にも形を保つための結界が張られ、崩落などを防ぐと共に破壊されることも基本的にはありませんわ」


「へー、へー……」


つまり結界が大外の枠組みになって、更に部屋や通路を拡張すると内壁も結界でコーティングされるって感じかな。


まあ地下100層を本気で目指すならそういうシステムもないと危なっかしくて困るか。


「ですので結界を拡張するための階層追加は魔力を多く必要となりますが、その内側を改造するための魔力はさほどかからず出来るようになっていますわね」


「そりゃ有り難いね」


試行錯誤できるっていうのは未経験者には嬉しい仕様だ。


「トラップの生成とかもできるんだよね?」


「左様ですわ。ただし金属の刃などを作る場合は魔力が多めにかかりますわね」


「やっぱり物を作るのは魔力がかかるってことかな」


「はい、生成魔法の領域では形を変えることは容易ですが、物質を作り出すことは難しく魔力もかかるということになります」


「んじゃ、武器とか作るにも金属は自分で用意した方がいいんだね。具体的に消費量ってどれくらい?」


「鉄のナイフを1本作るのに魔力を100ほど必要かと」


「冒険者に配る分ならともかく、罠に使ってたら気軽に破産しそうだ」


「代わりに鉄をナイフの形に成型するだけでしたら魔力は1も必要ありませんわ。ただし、成型と共に圧力を加えて強度を上げるような加工を施す場合はまた魔力がかかりますが」


「炭素を圧縮してダイヤモンドにするとかいうのはまた別の魔力が必要なのね」


そもそもほぼタダで自由に工作できるのも、魔力を使えば物質を作り出せるのもどっちも大分チート感あるけど。


とりあえず後で外に出て木材でも集めてこようかな。万能素材だし。


「んじゃ折角だしどれくらい拡張できるのか確認してみようか」


「はい、主様」


ということで、一先ず入り口の前まで歩いていくことにする。


コアの置いてある部屋から抜けると通路は暗くなるが、俺は自然とその中でもダンジョンの中を見渡すことができた。


これもダンジョンマスターの能力かな。まあ隣のルビィも平然とついてきてるけど。


「そういえばルビィ」


「どうなさいました? 主様」


「その主様って言うのなんだけど、別に普通に名前で呼んでくれてもいいよ」


と、そこまで言ってよく考えたら名前を教えていなかったことに気付く。


「俺の名前はユウキね」


「わたくしにとって主様は主様ですわ。ですがもし主様がお嫌でしたら改めさせていただきますが」


「うん、それならルビィが呼びたいように呼んでくれればいいよ」


「はい、主様」


ちょっとくすぐったいけど、美女にかしずかれるって言うのも悪い気はしないかな。


それに見合う人間にならなければ滑稽なだけだろうからやっぱり頑張らないとだけど。


「そういえば、俺は異世界からここに呼び出されたんだけど、他のダンジョンマスターもみんな異世界人なのかね」


「ダンジョンマスターの出自は様々で、こちらの世界の人間がその座に着くこともあるようですわ。逆に、ダンジョンマスター以外で異世界から呼ばれることもあるようですわね。とは言えその場合でも呼び出された人物は特別な役割を持つことが多いようですけれど」


「へー。勇者様とか?」


「過去にはそのような事例もあったようですわね」


「そうなんだ。それなら俺はダンジョンマスターで呼ばれて良かったわ」


「勇者ではご不満ですか?」


「どう考えてもキャラじゃないしね。まだこっちの方が合ってるよ」


なんたって元引きこもりだし、ぼっち耐性も高いし。


「ルビィが居てくれたのは嬉しい誤算だけどね」


「主様に喜んでいただけたなら幸いですわ」


喜ぶどころか破格の待遇に逆に心配になるくらいだ。


精々愛想を尽かされないようにしないと、なんて思っているとルビィが珍しく、逆に質問してくる。


「主様は、元居た世界に戻ることをお望みですか?」


「まあ帰れるなら帰りたいけどね。ハンタの最終回も読んでないし」


「ハンタ……? 最終回……?」


俺の言葉に不思議そうな顔をで首を傾げるルビィ。


最終回というか連載作品っていう概念自体がこの世界にはまだないのか……?


いやでも、ルビィが知らないってだけかもしれないか。


せめて製紙技術くらいはある世界観だといいなぁ。


「どっちにしても、今の役割を投げ捨てて帰ったりはしないよ」


まああの神がそもそもそれを許すとも思えないけど。


ともあれルビィに命を助けてもらった恩くらいは返さないとね。


そもそも論として、あっちの世界に俺を待つ相手は居ないし、引きこもっていた頃と比べたらルビィって話し相手がいるだけこっちの方が人間性のある生活をしている気もするけど。


「そいや、他のダンジョンの情報ってわかる?」


「現存するダンジョンが12箇所、過去一番大きなダンジョンが100階層までとなりますわね」


「他のダンジョンの構造とかは」


「それは、わかりかねますわ。申し訳ございません」


「謝らなくていいよ。まあそうだよね」


過去に学ぶのは効率が良いが、それをして結果同じようなダンジョンばっかりになるのは暇潰しで俺をここに呼んだ神の望むところじゃないだろう。


「んじゃまあうちのダンジョンの目標は101階まで作ることだね」


「主様ならきっと成し遂げられますわ」


「ありがと、期待に応えられるように頑張るよ」


なんて話をしていると入り口まで到着した。

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