温もりを拒んだ。

ちょこちっぷ

第1話

「ふぅ……やっと着いたか」


 金属の鎧を纏った青年が、息も絶え絶えなまま呟く。気が遠くなる程の距離を歩き1週間程かけて目指してきた場所は、無惨なまでに倒壊した家屋。強烈な腐敗臭が漂い、至る所に骸が転がっているその光景は、彼を恐怖で蝕んだ


「なんなんだこれは……。まるで地獄の様だ」


 青年は覚悟していたのだ、君主に命を受けた時から。この国に何が起こっていたのかは既に把握していたにもかかわらず、それを現実だと理解することを拒んでしまう。しかし、だからこそ青年の思考は冷静な判断を下すことができた。


「……兎も角、調査を始めるか。こんな場所に長く居座るのは御免だ」


 青年の目的は、あくまでこの場所一帯の調査のみ。屍人を弔うとか、そんなつもりは毛頭ない。君主の命を受けるのに、私情などは必要ないのだ。1秒でも早く成果をあげる。それが、彼の仕事だ。





「はぁ……。」


 あれから2時間程が経っただろうか。鎧を着た青年は、一切の進捗も無いことに頭を抱えていた。


「こんなのは前例がないぞ……」


 彼が今必死に行っているのは、マナの源泉の調査だ。そもそも、この王国の滅亡の原因は、元々潤沢だったマナが十年前にいきなり枯渇したことが原因である。そして彼は、マナが急激に枯渇した原因をを調査しに来たのだ。


「これは1人だけじゃ無理だぞ……せめてもう1人ぐらい欲しいよなぁ」


 思わず愚痴を呟いてしまう青年。だが、それもそのはずだった。他の人間がこぞって行きたくないと言った結果、彼1人で調査するしか無くなってしまったのだ。我儘に聞こえるかもしれないが、それを皇帝自らが容認してしまう程には、この場所は受け入れ難い所なのだ。1国を束ねる王が甘過ぎる気がしなくも無いが、帝国民はそこも皇帝の美点だと思っているらしい。


 ちなみに青年は、「その甘さを俺にも向けて欲しいものだ。」と若干だが感じている。


 話が逸れたが、そんな彼は愚痴を零している暇などはないため、すぐに作業を再会しようとしていた。……いたのだが。


「……少し休憩するか」


 彼も人間だ。流石に休憩は必要だったのだろう。彼はその場に座り込み、消耗した心身を回復させることにした。


「それにしても酷い有様だな」


 どこを見渡しても、目に映るのは死のみ。かつて栄えていた国の主都だった面影は残っているが、それは面影だけ。10年前にはここにあったであろう人々の笑顔も、美しい街並みも。全てが血の奔流に流されてしまった。


「果たしてあの反乱で生き残った人間が何人いるのだろうか……ん?なんだ?」


 複雑な心境で辺りを見渡し続けていると、ふと物音が聞こえてきた。


「……すぐ近くにいるな。」


 青年は警戒心を最大限に高め、その物音が聞こえた方向へと向かった。そして、物陰に隠れ恐ろしく低い声で言う。


「おい、何かいるのか?」


 ……青年の問いかけには、何も帰ってこない。このままでは埒が明かない、と青年はゆっくりと物陰から顔を覗かせた。


 


 刹那。


 


「……!!?」


 背後から殺気を感じ、青年は自らの限界を超える速度で剣を振り払う。彼が真後ろに払った剣は、金切り声をあげてなにかとぶつかり合う。


「……っ」

 

 敵が何者かを確かめるために、青年はすぐに後ろへ振り向く。



「子供……?」


 

 ……そこには、青年より一回りほど小さい白髪の少年がいた。



 



 

 


 




 


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