第8話

「あ! 課長。おはようございます」


 事務所に入った俺を出迎えたのは、新入社員の北村きたむら


「北村。こんな時間に『おはようございます』はないだろう。それとも、遅刻して来た俺への皮肉か?」

「いえ……そんなつもりは……」

「ふん!」


 俺はこの新入社員が嫌いだ。


 理由は顔が良くて、女性社員達にちやほやされているから。イケメンは俺の敵だ。


 さらに気に食わないのは、これだけ顔が良いのに女を口説こうとしない事。


 顔が悪くて女にふられまくっている俺から見たら、贅沢な野郎だ。


「ところで、さっき玄関で社長とすれ違ったのだが、どこへ行ったのだ?」

「ああ! 警察に呼ばれまして」

「警察?」


 社長、何かやらかしたのか? 


 警察に呼び出されるなんて、俺みたいな善良な人間には縁のないイベントだな。


「何でも、事故現場へ行くそうです」

「事故現場? なんの事故だ?」

「だから、課長の乗っていた電車の事故現場ですよ」

「なに?」


 社長が、なんで俺の巻き込まれた事故現場に?


 は! もしかして、俺の代わりに遺族から損害賠償を取り立ててくれるのか?


 良い社長じゃねえか。


「事故でお亡くなりになった方は、社長のお母様なのですよ」

「は?」


 今、こいつ何て言ったんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る