第25話 新たな任務

 そうか、アルエが港にいたのは、そういった事情があったのか。rnariboseはアルラウネから定期的にこのアウドムラにお忍びで入国していたと聞いているが、それは異国の地で暮らす娘に逢いに来るためだったのだ。アルエに。


 シーシ・マコーニさんが横のアルエに言った。


「お父様が記された『月の夜、雨の朝 新選組藤堂平助恋物語』はアルラウネの騎士道院で教本に指定され、剣術だけでなく清く正しい生き方の指導書としても使われているとか。王都の防衛でもニクス様と双璧となられた、あのドレイク様の強さを知る者なら、彼が教科書にしたという本の著者はその剣術の秘密を知ろうとする者たちから狙われるでしょう」


 アルエは不安げな顔をマコーニさんに向けた。


 ニクス王がアルエに言う。


「案ずるな。オリカゼからの情報によれば、そちの父の命に危険はないとの事だ。ただ、自由を奪われているだけらしい」


 アルエは安堵を顔に出す事はせず、むしろ悲し気な表情を浮かべた。


 ドレイクからの手紙を読み終えた私は王様に言った。


「ですが、ドレイク様は分からないのですね」


 王様は厳しい表情で頷いた。


「その手紙に告白した事が本当なら、ドレイクは非常に危険な状況だろう。だが、それは自業自得というもの。このアウドムラの民を利用し、魔法草プロメテイオンで一儲けしようと企んでいたのだからな」


 楽団が一斉に強く音を鳴らす。


 私は言った。


「王様との友情も利用して、ですね」


 ニクス王は黙って頷いた。


「ほな、そのドレイクっちゅう奴が、魔獣たちをこの王都に攻めてこさせていたのかいや」


 オカンねえさんも話に加わった。


 私は首を横に振った。


「いや、それを計画し実行していたのはアルラウネ公国内の一派で、それと手を結んでいる者が、このアウドムラ国内で魔獣どもを操っていたらしい。ドレイクからの手紙にはそう書かれていた。自分も駒だったのだと」


「では、そのアルラウネ公国内の一派とやらと結託して魔獣を操っているのが、ツクレイジーなのですか? カリントンコリントンを拠点にして」


 怪我人の治療を終えたミカドロスさんも話に加わった。


 ニクス王は首を横に振る。


「いいや、まだそこまでは分かっていない。だが、ツクレイジーは許可なく魔法を習得し、我が国の法も犯し、そして、その力で世界征服を企んでいる。奴は危険だ。これは看過できない事実だ。そうだなマコーニ」


 シーシ・マコーニさんは司法調査官として答えた。


「仰せの通りでございます。この私が何としても逮捕してみせます」


 ニクス王は頷く。


「うむ。それは心強い。だが、ひとりで気負うことはない。魔獣を操っているのが奴なら、それは私の友の敵でもある。師匠の敵である者もいる。だから、おまえ達を集めたのだ」


 私たちはシロクマさんの横に立っているキエマちゃんの方に視線を向けた。きっと彼女も同じことを考えているのだろう。


 すると、キエマちゃんが急に顔を覆って泣き出した。


 その前に座っていたミカンさんも、シロクマさんの胸に手を載せて下を向いている。


 まさか……。


 壇から腰を上げたニクス王と共に、私たちは、横になったまま動かないシロクマさんの下に移動した。


 ミカンさんはシロクマさんの小さな麦わら帽をシロクマさんの胸の上に置いた。その横で強く拳を握る。彼女の隣の子熊も、肩の上のペンギンも声を上げて悲しそうに鳴いていた。


 キエマちゃんがしゃくりながら言った。


「ごめんなさい……わたしが……わたしが……」


 オカンねえさんが苛立った様子で声を荒げた。


「どないしたんや、はっきり言わんかい! まさか、死んでもうたんか!」


 キエマちゃんは答えた。


「いいえ。耳を丸くしちゃいました」


 皆が一斉にこけた。キエマちゃんは続ける。


「思わずぬいぐるみを想像しちゃって、そしたら、つい……」


 オカンねえさんが怒鳴る。


「紛らわしいねん! ミカンもミカンや、なんでそんなリアルな演技すんねん! びっくりしたやんか!」


 ミカンさんは舌を出して首をすくめた。


 シロクマさんがムクリと体を起こした。頭に麦わら帽子を載せて大きな欠伸あくびをする。


 それを見て、一同は安堵の息を吐いた。


 ニクス王が皆の顔を見て言う。


「今夜はよくやってくれた。ツクレイジーを取り逃がしてしまったが、それは私のせいだ。正直に言おう。私はこんなに立派な筋肉をまとっているが、実は、虫が苦手だ。正直、奴が蝉に変身した時は鳥肌がたった。もし、私一人で戦っていたら、私は泣きながら剣をブンブン振っているだけだっただろう。実際、たまにゴキブリとか見つけると、そうなってしまう。だから、おまえらが居てくれて、私がどれだけ心強かったことか。改めて礼を言わせてくれ。そして、その感謝の印として、私からおまえたちにチーム名を授けよう。それは……」


 ニクス王は天井からの紐を引いた。くす玉が割れ、垂れ幕が降りる。


「チーム『ディオメデスの末裔まつえい』! 今後はそう名乗り、クソ魔王ツクレイジーを討伐せよ!」



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