日記:さよならフォロワーまた来て他人
「栄養失調で死ぬって話あるじゃん。あれって『まだこのくらいまでは今すぐ何食わせたり点滴すれば助かる』と、『もう手遅れ』のラインがあると思うんだ。たぶんその線が生死の境ってやつだよね」
高校の頃、友人にそう言われたのを覚えている。購買で買ったパンを食べている最中だった。あいつ結構怖い奴だったな。
話は変わるが、最近Twitterでよく千から二千くらいのプチバズを起こす。嫌だが仕方ない。そういうことものだ。
プチバスのたびにフォロワーがじんわりと増えて、スパムとか過激な思想垢とか裏垢を弾くために巡回する羽目になる。これが地味に面倒だ。
その作業の最中、見覚えのある名前とアイコンを見つけた。
相互ではないが(自分はタイムラインを追えなくなるのでツイート数が多いひとをフォロバできない)一目で思い出せるくらいには昔面識があったフォロワーだった。
彼女は所謂ツイフェミになっていた。自分の問題を全て社会や男のせいにする突飛なツイートを延々とRTしていた。社会問題に対してそれは無理筋だろという悪意ある解釈もたくさん流していた。
そのフォロワーは元々あるソシャゲが好きで交流が生まれたひとだった。
イベントストーリーのたびに脇役やモブの感情にも細かく向き合った感想を上げていて、キャラよりストーリー重視の自分とは違う見方で面白いなと楽しく見ていた。
仕事が大変そうで少し心配だなと思った。
自分がそのソシャゲをやめてからしばらく交流が途絶えていたから、具体的なことは知らない。
でも、ソシャゲの未実装キャラにも仕事の問題にも同じくらい真剣に繊細に思いを馳せるひとなら疲れてしまうだろう。そんなときに、自分の辛さを肯定して、自分のせいじゃないと言ってくれる思想があったら縋ってしまうかもしれない。
出張して原稿も抱えてるときにこんなことを考えたくはなかった。インターネット日曜日。
こういうとき思い出すフォロワーがひとりいる。
車と猫が好きな穏やかな主婦のひとだった。
今より遥かに馬鹿な学生だった自分が書いた短編や本の感想をよく褒めてくれた。普段大人しいけどゴリゴリにいかつく車を改造するのが趣味でかっこいいなと思っていた。
就活と結構長い間介護した祖母の死が重なり、忙しくて垢休止してたとき、心配のDMを長文でくれた。
そのひとが急に陰謀論にハマってしまった。支離滅裂としか思えない終末思想と警鐘を流し出した。アイコンも飼い猫から謎の光に変わって消えてしまった。最後のツイートは「何でみんな気づかないの」「いらいらする」だった。
優しいひとだったからな。そのひとにとっては本当に地球が危なくて、必死に呼びかけてるのに通じないと思ったんだろう。ひとりだけ火事に気づいてみんな逃がしてあげたいのに、誰もが知らん顔って状況に思えたのかもしれない。
他人なんか知らねえやと放り捨てる冷たいひとなら、あそこまでは行かなかったかもしれない。
ネットは偶に同じひとが別人になる瞬間の境界を寒々しく見せつけてくる。友人が言っていた生死の境だ。そのラインは誰にもわからないし、気づいた瞬間には昔のあのひとの死骸が横たわってる。いつか自分もうっかりその溝に陥るかもしれない。
気をつけたいと思うが、イカれようと思ってイカれる人間はいない。本人たちは真剣だ。どうしようもない。
件のフォロワーはもう数回リムーブしている。次フォローされたらブロックしようと思いつつ、bioにはお互い好きだったソシャゲの名前が載っていて、ついブロックを解除するに指を乗せる。
次こそはブロックしようと思ってbioに飛んで、懐かしいソシャゲを見つけて、またリムーブするんだろう。
何か感傷的に終わりたくねえわ。偶に思い出す元フォロワー。SF小説好きの男子大学生がアストルフォコスから女装界隈に流れて消えてしまった話とかもある。これは……感傷的に終わったほうがマシだったな!
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