第4話 話をしよう

それでは、話をしよう。


それは数十万年前だったか、はたまた数年前だったか、もしくは千年前の夏だったか。


私にとっては明後日のことだが、誰かにとっては昨日や明日の出来事かもしれない。それは仕方がない。仕様の問題だ。


しかし、フリー素材になっているからな。大丈夫だ、問題はない。


なんて、そんなどうこう言うことは、実はそんなことはどうでもいい。全然関係ない。


改めよう。



私の名前は深中負穏だ。



シンチュウフオンと読むらしい。負穏とでも呼んでくれ。不穏でも構わない。譜音とかもいいかもな。音がついて最も穏やかそうだ。



私は善を嫌い、悪を好み、正義を忌み、とある少年の心の中に住んでいる。時々出てきては思考を錯乱させ、混乱と混沌の境地に陥れることで、正常を取り戻す役目を演じている。……ことが多い。そんな役回りだ。希望観測的にはな。


ああ、あと、まあ、これは例えばだが……たとえば声優を私につけるとしたら、そのときには三○眞一郎さんとかつけておいてくれ。もちろん、決まった暁には『大丈夫だ、問題ない』ってセリフを言うことにするからさ。



さて、話題は何だったかな。


そうだ、それは面白いことかどうか、だったな。


それが面白いかどうかは果たして私にはわからないが、面白くないかどうかなら、それはわかる。


たとえば、テレビドラマとか。そうそう、そんなの今どき流行らないよね。流行らない。つまらないね、ぜんぜん面白くない。テレビアニメもそうだな、面白くない。全然だめだな、全く持ってだめだ。テレビゲームもだめだ。面白くない。スマホゲーム? なんだそれは。おじさんにはよくわからない代物だ。もっとワンダーな白鳥とか、ピーシーのエンジンとかにしろよ、時代錯誤な。まあ、でもたしかになにせ、今どきはテレビが汎用的なものでなくて、スマホとかタブレットの方が溢れて腐ってる。だから、小説とか、漫画とか、オーディオ物語とか、ラジオとか、そのへんはどうだろうと考えてみると、ふむ、まだ多少持ち直しているかもしれないけれども、しかし、よくよく考えてみるとそれらも全部つまらない。どれも流行らないな。面白くない。



 そう。そういうその他大勢に属するものは何でも面白くない。面白くなくなってしまう。



 世間がとか、みんながとか、クラスがとか、学校でとか、社会がとか、マジョリティがとか、なんかそういうその他大勢たくさんに関すること、不特定多数が支持すること、目にすること、好むこと、嫌うこと、そういうこと全てが面白くない。そう断言できる。ほらまあ、考えてみろよ。ガキの頃とか、子供の頃にさ、親とか世の中のことが大嫌いになることがあっただろう? 逆に誰も知らない専門知識、たとえば鉄道とか、古いアニメとか、知られていない漫画とか、まだ売れていないけどイカすバンドとか、そういうのばかり好きになる時期ってあるだろう。大人になってからもそのオタク気質を持ち続ける人だって、少なくないはずだ。なら、わかるだろ。みんなが好きだって言うことに反発して、自分は違うって意固地になってしまった時期。その時期って実は人生で一番正しくて、正当化されるべき感性のときなんだよ。だって世の中って面白くないから。それを面白くないって言える時期だから。でもそれがさ、友達とか、世間体とか、恥とか、そういうのを覚えてしまったら面白くないものでも面白いっていうようになるんだ。良い点を見つけて、妥協して、まあ、そんなものかと感性を騙して、面白いのハードルを下げる。そうやって世の中を渡り、世の中で人間関係をうまく築いていき、生きていくんだ。どうだ、面白くないだろ。子供が大人になるとはそういうことなのかもしれないし、そうなのだろう。面白くない人間にだんだんなっていくのだ。他人と同じような、似たような、代わり映えのしないような、そんな残念な人間に。私みたいな。私みたいな不穏な人間に。つまらない人間が増えれば、世の中なんてのは面白くないものになり、それを妥協して受け入れる人間が増えるのがオチ。しかし、面白くないものを適当に面白いと思えるようになれば、ある程度は人生を楽しめるようになるという無意味で完璧なカラクリができあがっているのだ。




さて、話が長くなってしまったが、しかし答えは出たのではないだろうか。結論は導けたのではないだろうか。それが絶対にマルをもらえない解答だとしても、途中点の三角だとしても、間違いだと押印されてしまうのだとしても、しかし、やはり答えは出たように思える。私がこんな人間だから、そんな答えがでるのは仕方がない。ここまでの説明で、私の思考の過程がおおよそ察することができたであろう。答えもそんなものだと、そう思ってくれ。



 結論。



 人間というのはつまらない。面白くない。




 それでは、また機会があれば会おう。



 さらばだ。


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