オーク・ザ・アドベンチャー 

黒縁 眼鏡

プロローグ

 前略、お父さんお母さんお元気ですか?

 僕は元気とは言えませんが何とかやっています。

 最後に会ったのは、僕が学校へ行くときに挨拶をしたとき以来だから三か月前かな?

 あの時は怒鳴ってごめんなさい。

 MMORPGゲーム【ザ・ワールド・オブ・ファンタジア】のレイドボスを攻略している最中に邪魔をされたから機嫌が悪かったんだ。

 寝ずに朝までゲームをやっている僕が駄目なのは分かっていたけど、感情を抑えることができず、今ではとても後悔しています。

 まさか学校の非常階段の柵が壊れて四階の高さから落下して死んじゃうとは。

 え? 普通に生きているじゃないかって? いや、信じられないかもしれないけど実は異世界に転生しました。

 ははは、これじゃ運が良いのか悪いのか分からないや。

 ……ゴホン。ごめん、笑いごとじゃなかったよね。だけどどうか許してください。ふざけないと僕の心がおかしくなりそうなんだ。

 というのも、僕が転生した先は『死者の迷宮』といって、誰も踏破したことのない難攻不落の迷宮みたいなんだよね。

 全百層から連なる広大な領域、そこらじゅうに魔物が跋扈し、十層ごとに強力な個体の魔物が待ち受ける。

 そして、最後には神代から生きる伝説のドラゴンがいるんだ。

 そのドラゴンは、絶大な力を持った勇者、あらゆる戦場で無敗を誇った戦士、魔導の深淵に触れた魔法使い、かつて大陸を支配した大国からたった一人で街を守ったとされる英雄ですら倒すことが出来なかった。

 そんなドラゴンを一人で倒さなければ僕は迷宮の外に地上へ出ることができない。

 あーもう、そんなの不可能に決まってるじゃないか! 難易度ベリーハードの無理ゲーどころかクリアさせる気のないクソゲーだよ全くっ!!


「「「「「待てーーーーっ!」」」」」

 

 おっと、危ないところだった。

 もう少しで彼女たちに追いつかれるところだったよ。

 そうそう、お父さんお母さん地球では地味でデブで根暗なオタクの僕ですが、異世界ではかなり女性にモテるみたいです。

 えっ? 嘘じゃないよ。確かに年齢=彼女いない歴で、バレンタインはお母さんと幼馴染からの義理チョコしか貰ったことのない僕だけど。

 ほら、今も熱い視線を向けられて追いかけられているんだ。

 

「こらっ、逃げるな!」


 金色に輝く綺麗な髪、強い意志の籠った瞳に凛々しそうな顔、遠目からでも分かるほど豊満な胸とスタイル抜群な身体、高貴な生まれと察せられる騎士調の服。


「大人しくするのじゃ!」


 腰まで辺りまで伸びた紅い髪、生意気さが窺える緋色の瞳、幼い顔と小さな身体はヒラヒラの付いた真っ黒なドレスに包まれている。


「フフフ、いつまで逃げられるかしら」


 三角帽子の下に艶やかな黒髪を束ね、大人のエロさが垣間見える整った容姿、異性を誘い惑わし破滅させる魅力的な肉体、少々露出のある黒いローブを着て、手には身の丈を超える杖を持つ。


「待てっ、私から逃げれると思うなよ!」


 ふわりと風になびかせる金髪に他にはない特徴的な長耳、どこか神秘的な雰囲気を漂わせるその顔は一流の職人に作られた人形のようで、スタイルの良いしなやかな肢体を操り颯爽と地面を駆け抜ける。


「ハァハァ……皆さん…ちょっと待ってください」


 その美貌は全てを包み込む生命の女神の生き写しと噂され、信仰する教会の修道服に身を包むその身体は異性同性問わず羨むほど完成されており、彼女から発せられる声は慈愛に満ちていた。


 おそらく異世界でも有数の美女・美少女に猛烈なアプローチを受けるようになったわけですが、僕の容姿がカッコよくなったわけでも美醜の価値観が反転したわけでもありません。

 それなのに何故こんなにも必死に追いかけて来るのかって?

 お父さんお母さん、僕が正気を保てなくなった一番の原因は……。


「ブヒィィィィィィィィィィィィィィィ!!」

 

 僕、異世界に転生したらオークになっちゃったみたいなんです。


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