第二二話 『パレードでの遭遇と写真』
ゴンドラでのゆっくりとした遊覧を終えた俺達は、予定していたパレードの観覧場所でレジャーシートを敷いて始まるのを待っていた。
「うーん、もう少し早くに来ればもっと良い席だったかもしれないですね……」
「まぁ、そういってもな……」
「楓さんが道に迷わなかったら早くに来れてたかも知れないんですよー」
俺達のいる位置は前から見れば三列目くらいで、見えないわけでは無いけれど、ちょっと前の人が邪魔という位置だ。
パレードに向っている途中から、大分楽しみにしていたのか今の華凛は結構不機嫌だ。それでも怒ることはせず仕方が無い部分もあるとおもってくれているのか、怒る代わりにと、駄々をこねる子供のような感じで俺をからかってきていた。
「あ、席といえばうちのクラスそろそろ席替えするかもな」
凄くわざとらしいのは分っているが、この状況から逃れようと誤魔化してみる。
美甘や愁だったら普通に誤魔化すの下手くそとツッコまれからかわれるのだが、華凛の場合は乗ってくれたり、普通に誤魔化されてくれることもあるのでちょっと賭けてみた。
「え? いきなりどうしたのですか?」
「いやちょっと思い出してな」
「まぁ、そういうことにしておいてあげます」
さすがにわざとらしすぎて話題を変えたのはばれているみたいだが、話しじたいは変えてくれた。
まぁ、彼女の表情的に、ただ話題をかえただけでからかいは続行みたいだが。
「楓さんは私の隣の席になってみたいですか?」
「え、いや華凛の隣は、目立つし……」
「嫌なんですか? 隣だったら、私を盗み見るのは楽になりますよ」
「え……」
たしかに彼女と休日に遭遇した後からちょくちょく見ていた。まさかそれがバレていたなんて……女性は視線に敏感だって聞くし、可能性はあるか。
「え……冗談のつもりでしたが、もしかして本当に……」
「まぁ、見てないって言ったら嘘になる……けど、華凛のほうも、ちょくちょく俺の方見てるだろ?」
授業中、何度か彼女の方から視線を感じた覚えがある。
まぁ、誰から見られていたかなんて確認していないから、方向だけの判断ではあるが、俺を見てきそうな奴なんて限られている。美甘も同じ方の席に座っているから彼女からの視線というかのうせいもあるがまぁ違うだろう。
「貴方なんて、見るわけ無いじゃないですか! 大体私があなたの方をしきりにみていたら目立つでしょう。目立ちにくい窓の反射で、とかは全然見えませんでしたし」
「ん? 反射しないことを知ってるって一応見ようとしたことがあるってことだよな?」
「え、あ……いえ、えぇっと。そうですよ! 何か悪いですか!」
誤魔化しようが無いと悟ったか、逆ギレをしてくる華凛。
その様子が面白く、ついつい笑ってしまう。
「笑うなんていい度胸してますね。覚悟は出来てるんでしょうね。楓さんとはもう会話しませんよ」
「それで、パレードまでの時間無言ですごすのか?」
「うぐ……じゃあこの話は終わりにして別の話に切り替えましょう!」
なんて強引に、別の話題へと強制的に切り替えられた。華凛らしい。
その後も、話題は日常てきなものから、演技にかんすることなどころころとかわってゆき、気づけば、遠くから軽快な音楽が聞こえてきた。
目をこらし、音の方へと視線を向けてみれば装飾のされた車、華凛曰くフロートと言うらしいそれが、ゆっくりと近付いてきていた。
今の季節的なものだろう、ハロウィンチックなおばけに扮したキャラたちが、お祭りのように踊り、はしゃぎ、楽しげに進んできている。中にはちょっとだけ怖い見た目をしているマスコットもいた。
一応、こういうのは大丈夫だよな? なんて不安になって、彼女の方に視線を向けてみたが、心配無用だった。まるで子供が宝物を見つめるように、キラキラとした瞳でパレードを眺めている。
「楓さん、あれ見てください、物凄く動きかわいくないですか??」
楽しげに、見えやすい位置をさがす為か左右に体をゆらしながらパレードを眺める華凛。さっきからものすごく興奮した様子で子供みたいになっている。それが無性に可愛らしく、ちょっと特等席に座っているような気分だ。
パレードのダンスも楽しいし、演出もすごい。そして、それを純粋に楽しむ華凛がは幸せそうで俺もそんな彼女が見れてとても幸福だった。
待ったのは一時間だが、過ぎるのはほぼい一瞬だ。それでも濃密で楽しい体験といえる時間。二人で見合いながら余韻に浸りるため俺達は近くのベンチへと移動しようとしていた。
そんなときだった。
「楓……」
聞き覚えのある、いや聞き慣れた高く特徴的な声。
一瞬で脳までそれは届き、嫌なアセがドバリと出てくる。
恐る恐る声の方に視線を向ければ、予想通り最悪な状況だった。
やばい、といった表情を浮かべる美甘と「へ? 美甘の知り合い?」といった様子で俺を眺めてくる美甘の友人とおぼしき二人。
「あなた、同じクラスの葉月楓……だったわよね? ごめんなさいね、そういうキャラじゃないとおもっていたからこんなところにいるなんておもわなくって……」
誤魔化そうとしてくれた美甘だったが、言い切る前に俺に向けていた視線が横にそれ、その先の言葉は出てこなかった。
その方向にいるのはもちろん華凛だ。あぁ、変装ぎみではあるが、まぁ華凛を知ってたらわかりやすいよな……。
「うえ、隣にいるの悪役女優もいるじゃんえ? 二人はどういう関係? まさかのカップル?」
美甘の隣の身長の高くやや浅黒い女子が、ずかずかと前にでていきなり聞いてきた。やばい、カップルではないから否定するのは簡単だが。
「何を言っているのかしらあなたは、そんなこと有るはずないでしょ? 私とこの人では天と地ほどに立場の差があるんですよ?」
「えー、でもランドに二人っきりで来るって、特別な関係じゃなきゃ、なくない?」
段々とヒートアップし始め、悪い空気になり始めた。でも、今の状況だと俺は……どうにかできそうもない。もめ事のような空気に僅かだが人の視線が集っていたからだ。中には見世物とでも思っているのか。写真を撮っている人もいた。
「ちょっと、
「えっ、美甘……」
「二人がどういう関係だって私達には関係ないでしょ? そういうのをつついて、関係が崩れたりしたら一番最悪だよ」
ちょっとだめになりそうになる一歩手前、美甘が二人の間に割って入り、長身の女性のほうを引き剥がして、ものすごく感情をこめ、説教を始くれた。
まぁ、そうかこの状況なら美甘がとめるか……。
「神無月さん。ごめんね……私恋バナとか噂が好きでさつい……不快にさせちゃったよね……ほんとうにごめん」
数秒後、説教をうけた長身の女性は、華凛へ深々と頭を下げてきた。意外とキッチリしてるんだな。
まぁ美甘の友人だから変な人では無いのだろう。流石のかりんもこの状況でこれ以上怒るわけにも行かず、おとなしく謝罪を受け入れていた。
「ごめんね、神無月さん。ふたりのことは誰にも言わないし、詮索させないようにするから気にせずのこりのランド楽しんで~」
長身の女性ともう一人の友人を連れて、手を振りながら人混みへと紛れていった美甘達。俺等も目立ってしまっているからとこの場から離れ、時間的に最後だろう手近なアトラクションの列に並んだ丁度その時だった。
『ごめん、楓。埋め合わせできたらするわ。二人には結構しっかり言わないように言い含めたから、私の友人の言葉ってことでその辺、信頼してくれないかな???』
俺のスマホに美甘からそんなメッセージが送られてきた。
こういうところは本当に律儀な奴である。
苦笑を浮かべながら『しょうがない了解』と打ち返し、二、三通分埋め合わせについてのやり取りをしてから顔を上げると、華凛にじっとりとした目で睨まれていた。
「楓さんと美柑さんが友人なのは知ってますけど、今日は私と二人でランドに来てるんですよ!」
わかってるのですか?? と不満そうに告げ、ポカッポカッと肩を叩いてくる華凛。
「いや、分ってるよ」
「わかってないから、そんなこと言えるんですよ。楓さんはそういう部分にも観察眼を強めてもいいと思うんですよ」
言葉にのった感情と共に僅かにちからが強まった。これは地味に痛い。
「楓さん、今日は私と一緒のランドなんてすから私を退屈させないでくささいよ」
悲しそうに言ってくる華凛の表情をみせられてしまっては、下手な言い訳をすなんて俺には出来なかった。
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