天才達の戦闘

 司会が去り、ドラの音が鳴り響く。


「さて、どうしよっか」


「リゼは妹さんを相手してあげたら? 多分、五重奏クインテットくらいなら構築できると思うから。肩慣らしに」


「お、じゃあそうしようかな」


 相手は魔法特化、長杖ワンドを持った妹と、2本の棍棒マレットを持った兄。


 ステータスは恐らく兄が筋力重視、妹は魔法特化のMP高速回転構成(レベルアップ時に発生するボーナスポイントというものをMPに振り分けられるように調整するためステータスポイントの振り分けを敏捷性、知力、防御力に振り分ける構成)かな。


「じゃ、任せたよ」


「了解」


 リゼは腰のホルダーから2輪のチャクラムを取り出し、突撃していった。


「はやーい」


 俺も兄の方に攻撃を仕掛ける。


「『ばっとういっせんまたたき』」


 刀スキル内で最速の発生と移動距離を誇るスキルを発動し、肉薄。


「ふんっ!」


 逆袈裟の斬撃はマレットによって阻まれる。


 即座に反撃の振り下ろしがもう一本のマレットから繰り出されたので、すぐに距離を取った。


「まあ、これくらいは耐えてもらわないと」


「ふっ、言い訳か?」


 ゲイル兄が余裕の笑みを浮かべる。


「言い訳かどうか、試してみるか?」


 俺は刀を構え直し、踏み出す。大上段からの愚直な振り下ろし。


「ヌウッ!?」


 通常、隙の多い大上段からの振り下ろしは受けるよりも回避し、発生の早いスキルなどで攻撃を加えるのが常識だ。


 なら、なぜ相手は攻撃のチャンスをふいにし、受けに回ったのか。


「やっぱり、敏捷性AGIにあんまりステータス振ってないだろ?」


 単純に躱しきれない速度で俺が振り下ろしをしたに過ぎない。


「鈍器系の武器を使うときは基本的に筋力にステータス振るもんな……さて、そんなステータスで俺の攻撃を凌げるかな?」


「なっ――?」


 上段で拮抗していた刀を滑らせるように腰に引き込み、即座に突きを放つ。


 相手が首をひねって回避、それを予見し、未だ掲げられたままのマレットの片方を打ち払う。


「はい、あと一本。これが戦争なら死んでたねー」


 余裕の表情を崩さずに俺はそう煽る。相手はと言うと、もう片方のマレットを持って俺を唖然と見下ろしている。


 そんな中俺は弾いたマレットを手に取り、それを相手に放り投げる。


「こういうのはあんまり良くないんだけど、アンタの全力を受ける前に終わっちゃいそうだからさ、さっさと本気、出してよ」


 そう言って煽ってみる。


「……あぁ、そうだな。どうやら今の俺では、お前に勝てないらしい」


 ゲイル兄がマレットを構え直す。


「今の俺がどこまで行けるのか……試させてもらう」


 そう言うとゲイル兄は何個かスキルを同時発動する。


「《不屈の意思》《一騎当千》《不忍不抜》…」


《不屈の意志》…自分がピンチのとき、攻撃力20%上昇


《一騎当千》…自分がピンチのとき、防御力20%上昇


《不忍不抜》…自分がピンチのとき、筋力20%上昇


 どれも自分が不利な状態のときに発動するスキルだ。一撃必殺の火力を高めている。


「喰らえ…『流星砕棍メテオクラッシュ』!!」


 スキル発動の宣言とともに、2本の棍棒が青色の輝きを放つ。


(『流星砕棍』……たしか鈍器系の振り下ろしによる連続攻撃スキルだったな)


 集中によって時間が遅くなったような感覚に包まれながら、俺は思考する。


 この世界のおける攻撃や能力の引き上げを行う方法は2つある。


 一つは『スキル』。


『抜刀一閃・瞬』やリゼの『ホールバニッシュ』のように、武器のスキルレベルを成長させていけば獲得できるもの。


 これは誰でも獲得できるものの、教本などにまとめられ技の内容が周知されている。


 そして、もう一つが『武技アーツ』。


 スキルレベルの極地にたった人間が武人が編み出すことができる、オリジナルのスキルだ。


 その種類は武人の数ほどあると言われ、それぞれの歩んだ道が個性として反映されることが多い。


「『無那神楽ななかぐら』」


 俺がアーツ発動の宣言を開始すると、魔力が足に集中する。


「『無悠秒むゆうびょう』」


 雨のように降り注ぐ棍棒の攻撃を、足さばきのみで回避する。


 魔力により肉体の完全な脱力と緊張を操作し、自身のスピードを0から100、100から0へと即座に入れ替える。


「見えた」


 攻撃の間隙、通常なら攻撃されることのない不可視の隙を、俺は捉えた。


「『無那神楽・無秒の刺白むびょう しはく』」


『抜刀一閃・瞬』を超える完全脱力からの最速刺突。


「ガッ、ハッ…!」


「ナイスファイト。まだ君は強くなれるさ」


「あぁ……敵に褒められるには癪だが…もっと強くなってやる」


 ゲイル兄がそう言って粒子となり消える。


 腕輪の生命維持魔法が発動して脱落者の席に飛ばされたようだ。


「さて……リゼの方は…」


 先程から全く魔法による派手な爆発音等が聞こえてこないので、恐らく苦戦はしてないであろう相棒の戦況を俺は見守ることにした。



 =============



 2輪のチャクラムと共に私は魔法使いに接近する。


「舐めんじゃないわよ!」


 先行したチャクラムが彼女のワンドに弾き返され、私の手元に戻る。


「やっぱりアイツはお兄ちゃんの方に行ったか。口ではああ言ってるけど、結局逃げたんだ〜」


「よそ見してる暇があるの? 君の相手は私だよ」


 油断しきってる相手に容赦なくチャクラムを投げつける。


「わ、ちょ、ちょっと!」


 慌ててゲイル妹がチャクラムを弾き、杖で地面を叩く。


二重奏デュオ、《轟雷サンダーボルト》!」


 反撃の雷魔法が飛んできたので後ろに飛び退って回避。そのまま疾走を開始する。


「二重奏、《乱旋風サイクロン》!」


「『二翼ツヴァイ塵旋風の装飾曲ヴィルデルヴィンド・アラベスク』!」


 2つチャクラムを相手の生み出した竜巻に投げつける。


 収束した魔力が込められたチャクラムが竜巻にぶつかる。その衝撃に魔力が開放され、無数の刃となって相手を襲う。


「小賢しいわね! 独奏、《防御盾プロテクトシールド》!」


「ふむ、もっと手数を増やしちゃおう。『複翼フィーレ運命の夜明曲シクザール・オーバード』」


 私はそう言って2輪ずつチャクラムを持ち、十八番のアーツを発動する。


 キン、キンと金属が打ち合うような音が鳴り、緋色の円刃が16個生まれる。


「このくらいで十分かな」


 両手を払うと、自分の手足のように意のままに16の円刃が周囲に漂う。


「な、なによそれ、あり得ない、分身系のスキルの難易度はその分身の数と同じ数の魔法を同時発動するのと同じくらい難しいのに…」


「ちっちっち、甘いね君は」


 たしかに、16のチャクラムの分身を操作するのは、1種類の魔法を十六重奏セディシテットで制御する芸当に等しい。


 ユノならできるかもしれない。でも私には無理。


「でもね、私でも八重奏オクテットくらいなら見ずに制御できるんだよ」


 2つずつ、同じ動きをさせれば処理量は半分。


「さあ、君は耐えられるかな?」


 8組の円刃が魔法使いに殺到する。


「っ…二重奏、《轟雷》、三重奏トリオ、《火焔円舞フレアカーニバル》!」


「ほいほいっと」


 5組を魔法の迎撃にあてて、残り3組を相手に向かわせる。


「っ、しつこいっ!」


 絶え間ない攻撃に耐えかねて、相手が移動を開始する。


 魔法使いの弱点は、移動中に高威力の魔法を構築できない。


「逃がさない。《単翼アインス雷鳴の詠唱ダナード・アリア》」


 ありったけの魔力を圧縮したチャクラムを投擲する。


 稲妻のような一撃は、正確に相手の背中を撃ち抜いた。


「ぐぅっ!」


「こういうのもなんだけど、降参してくれない? これ以上やっても勝ち目なんてないと思うけど」


「うるっさいわね……その油断が命取りよ!」


 相手が叫んだ瞬間、私の周囲に5つの魔法陣が浮かぶ。


「杖の力を借りていない、純粋な私の魔力を喰らえ!」


 魔法陣から光が溢れて、私に直撃――



「――リゼ、手負いの相手でも油断はするな」


「…は?」


 放たれるはずの魔法は、光を失い、魔法陣が砕け散った。


「ゆ、ユノ。ごめん」


「油断して大怪我でもされたら困るんだけど?」


 私を助けてくれたユノに謝る。


「な、なんで…私の魔法が…」


 いまだに状況が呑み込めていない相手に、ユノが丁寧に伝える。


「君が発動しようとした魔法は自分の魔力を純粋に放出する《魔力砲マジックキャノン》だろ? あれは構成が単純だから簡単に無力化できるんだよ」


「そ、そんな」


「しかし、その前のリゼとの戦闘はいただけないなぁ。あくまで杖の性能ありきの魔法構築速度。武器に頼って地力を伸ばさないのは良くない」


 そう言ってユノが一度眼を瞑る。


十重奏デクテット、《魔力砲》」


 これが見本だ、と言わんばかりに高速で10個の術式を展開。


「もう少し修行してから出直しな」


「ちょ――」


 ゲイル妹が何かを言う間もなく、魔法が発動し相手を消し去った。


「試合、しゅーりょー!! 本戦1戦目を制したのは、王立学院のNo.1とNo.2! ユノ・アスフェルトとリゼ・テレストラシオンだぁああ!!」


 会場が大歓声に包まれる。


「余裕だったね」


「油断して一撃くらいそうだったのにね」


「む、もう油断しないもん」


「頼むよ」


 ユノの小言に口をとがらせながら、私は一緒に控室に戻っていった。

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