どうやら冤罪だったので、抵抗させてもらいます
ズドォン!
「な、なんだ!?」
「あ、もう来たんですね」
俺の真横にクレアさんが着弾した。何を言ってるかわからねぇと思うが、そういうことだ。
正確には、片手剣の突進系スキルで吹っ飛んできたといったほうが正しい。
「アーセナル所属、第1主分隊のクレア・ロスフォーラムだ。調査の結果、君たちの騎士団は脱税に格安で買った剣の横流し等の重大な犯罪行為が確認された。ちょうどその横流しなどの罪をこの店の主人になすりつけていたようだが、もうおしまいだ」
「なっ…」
クレアさんの凛とした声音に、目の前の騎士は顔を引き攣らせる。
「デ、デタラメだ! 我々はそのような卑劣なことは断じてしていない!」
「証拠はもう上がっている。この店の主人を誘拐し、自分たちの金を稼ぐための奴隷として働かせようとしていることもな」
「えっ、そうだったんですか」
昨日クレアさんに話を聞いてから騎士団の連中が何かしらしてくるとは思ってたけど、奴隷になるかもしれなかったの俺…
「えーっと、今の話は本当のことでしょうか?」
俺は丁寧に目の前の騎士に尋ねる。
「ご、誤解だ! 我々は決してそんなことはしていない!」
「でも、無実の罪で俺のことを連行しようとしましたよね?」
「そっ、それは貴様の店が商品を横流ししていたからで…」
「でもそれは貴方達が俺に罪を着せようとしてたんですよね」
「…だ、黙れっ!」
「クレアさんが言ったことが本当のようなら、貴方達は騎士団ではなく、タダの犯罪組織です。俺が逮捕される謂れはありません」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」
「うまく行かなくなったから喚いて威圧ですか? 『威圧』スキルレベル上げてます? ぜんっぜん怖くないんですが。むしろ無様」
「お前らぁあ!! このクソガキをぶち殺せぇ!」
あらら、軽く煽っただけで逆上かよ。
「ユノくん。相手はレベルが低いといえど戦闘スキルで一般人の君がどうにかなる相手じゃない。ここは私に…」
「? リゼから聞いてないんですか?」
「は?」
俺は右手を突き出して魔法を発動する。
「
その瞬間、目の前で剣を構えた騎士が吹き飛ぶ。
「俺、そこそこには強いんです。だから任せてください、鬱憤も晴らしたいので」
クレアさんは俺の方をまじまじと見ると、
「あ、ああ戦闘もできたのか…分かった、任せよう」
「ありがとうございます」
「ユノ! 剣は!?」
リゼが俺の得物が見当たらず確認をしてくる。
「使わない! リハビリがてら魔法で戦う」
俺はポケットから護身用の
「来いよ、遊んでやる」
俺は陣形を組む8人の騎士を見据えた。
=============
ユノは天才だった。
学院時代、私は単純に戦闘能力が評価されて主席になることができたけど、彼は違う。
私が大会で優勝していたときに、魔術の学会で論文を発表し、それが話題になったことがある。
もちろんユノが発表した論文はそれだけじゃないけど、あまりにも理論が難解な上高度な魔法制御が必要なので机上の空論とされているものが多い。
「独奏、《
その一つが『増殖構築』。
発動する魔法術式の中に、更に同一の魔法術式を組み込む。
ユノが放った炎の旋風の持続時間は平均10秒。
効果が切れた瞬間にもう一度魔法が発動する。
制御の難しさと使用魔力の多さで机上の空論とされている構築だ。
約20秒の大火災が終了し、残った敵は5人。ユノの目の前にいた騎士は反応もできずに燃えた。
「《治癒》、死なれちゃ困るからね。死なない程度に動き止めるから」
5人はユノを包囲するように回り込む。
「
しかしその包囲を嘲笑うように5つの雷が降り注いだ。
「リ、リゼ! あの男はあれほど戦えたのか…!」
クレアが唖然とした様子でそう呼びかけてくる。
「あれ? 言ってなかったっけ? 私以上だよ。ユノの本気は」
「…末恐ろしいな」
戦闘はもう終了しており、ユノは平然とその場に立っていた。
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「終わったよ」
「うん、見ればわかる」
俺がそう伝えると、リゼも平然と答えた。
「ユノくん。到着が遅れてしまって申し訳なかった。私がもっと早く来ていれば、こんなことには……」
そう言ってクレアさんが頭を下げる。しょんぼりと尻尾を垂らした大型犬みたいだ。
「頭を上げてください。別に気にしてませんから。それより、アーセナルに行きましょう。これからウチの武器を取り扱ってくれるなら、早めに話し合わないと」
「…そうだな。よし、ではついてきてくれ」
俺が話題を変えると、すぐに気を取り直して俺たちを先導し始めた。
「――では、これからユノさんはウチに武器をこの値段で卸すということで」
「はい。それ以外にも、武器の手入れを割安で行います」
「わかりました。それで行きましょう」
アーセナルでの契約はあっさりとうまく行った。大抵の条件は相手が飲んでくれたし、アーセナル側もこっちの事情をしっかりと鑑みてくれていた。
「では、剣の納品は来週にお願いします」
「わかりました、それと、このクランに入隊したいんですが。手続きはどうすれば?」
「鍛冶師だけでなく冒険者も兼任なさるのですか? まあ、リゼさんとクレアさんのお墨付きですし、実力は確かですが…」
「ああ、いえ、いつも素材を手に入れるために飛び回っているので、どこかに所属していたほうが身元の保証にもなりますし」
「ああ、それでしたら受付カウンターの受付嬢のところで登録ができますよ」
「ありがとうございます。では」
商談を終えて、俺は早速アーセナルの受付のある場所に向かった。
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「ふふんふんふ〜ん」
ユノが商談のため交渉の係の人と別の部屋に行ったあと、私はクレアの執務室でゆっくりと鼻歌を歌いながら紅茶を飲んでいた。
「……器用だな」
「慣れたら簡単だよ? 初めは鼻から紅茶吹き出したこともあったけど」
「才能の無駄遣いか?」
「…それで、ユノは順調に交渉を進めているのかな」
「ああ、今の所特に問題はないようだ。こっちとしても、ほぼ言い値で卸してもらってもいいほどに質がいいからな……さらにアーセナルに所属してくれれば願ったりなんだが…」
「あはは、それは高望みしすぎだよ。でもまあ、そうなったらまたバディ組みたいな」
「そうか、学院時代にお前たちはバディを組んでたのか」
「それはもう学院に敵なしで恐れられたよ」
「それは入ってくれたら心強いな」
「まあありえないけどね!」
「「あっはっは!!!」」
「失礼します!」
二人で笑い合っていると、急に執務室の扉が開かれ、受付嬢の人が小走りでやってくる。
「何があった?」
「そ、それが、先程商談をなされていた方が、アーセナルに所属したいと言ってきまして」
「な、何!? それは本当か?」
「はいぃ! どうしましょうか!」
「もちろん受け入れるに決まっているだろう! ここに来るように伝えてくれ!」
「わ、わかりました!」
その後、ユノがやってきてトントン拍子で第5分隊の主分隊に組み込まれることになった。
「これからよろしくねリゼ」
「お、おう、まあ任せてよ!」
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