そのどてっ腹に風穴開けて――

 リゼを目配せをし、オークロードの下に駆ける。こいつの長所はその体躯に違わぬ圧倒的な攻撃力、体力、防御力。そして固有スキルの『自己再生』は治癒魔法に匹敵する再生速度を見せる。


 しかしやりようはある。その巨体ゆえ鈍重であり、相手が反応できない速さで再生速度を上回る攻撃を続ければいつかは倒せる。


 リゼが苦戦していたのはダメージがなかなか入らなかったからだろう。彼女のスキルにも火力の高いものはあるが、どれも発動前と発動後の隙が大きいのでむやみやたらと使えないからジリ貧になっていたのだと考える。


 しかし、それもヘイトを稼ぐ相方がいれば話は別。


「リゼ! 準備しとけ!」


「了解!」


 オークの横振りを滑るように回避し、攻撃を加える。


「グガアアアアアア」


「ほら、さっさとかかって来いよウスノロ!」


 その挑発が効いたのか、オークロードがこちらを向いて突進してくる。


「ブオオオオオオ!!」


「遅い遅い!」


 攻撃を軽々避けて躱し、を起動した。


「《鉄鎖束縛チェーンバインド》!」


 オークロードが立つ足元に魔法陣が浮かび上がる。


 幾本の鎖がオークロードをしっかりと捕縛した。


「あ、腕はもらうよ。珍味で高く売れるからね」


 俺は納刀した刀を握り、スキルを発動する。


 移動用スキル『縮地』で敏捷力を底上げし、抜刀する。


「『ばっとうげきみず』!」


 爆発的な加速で、右腕から左腕と流れるように斬り落とす。


「あとはよろしく! あのどてっ腹に風穴開けてやれ!」


 着地すると、俺は相棒に合図を出した。


「さすが、完璧だね」


 後方でレイピアを構えていたリゼが、地面を抉るような踏み込みをし、一歩で敵と肉薄する。


「『バニッシュホール』!」


 突き出したレイピアがオークロードに触れた瞬間、圧倒的な貫通力を秘めた一突きがオークロードのHPを消し飛ばした。


「威力上がってるじゃん。俺が喰らっても無事じゃすまないぞアレ…」


 彼女もこの一年で成長したようだ。


「ユノ」


 倒れ伏したオークロードを避けて、リゼとそのパーティーが駆け寄ってきた。


「やあリゼ、一年ぶり…」


「セイッ」


 俺がフレンドリーに話しかけると突きが飛んできた。


「ホワッツ!?」


 間一髪で避けると詰め寄ってきたリゼに胸倉を掴まれた。


「今まで何してたの! 連絡もくれないし、お店の場所くらい教えてくれてもいいじゃない!」


 どうやらご立腹のようです…



 =============



 傷ついたリゼのパーティーに治癒魔法をかけ、オークロードを素材別に解体して一段落する。


 パーティーの治癒師ヒーラーからなぜか驚かれたような顔をされたが、なぜかは分からない。


 このまま街に戻るということだったので、同行することにした。


「そういえば、ユノはなんでこんなところにいたの?」


「武器を磨く際に使う油が欲しくてここで集めてたんだ」


「本当に武器屋やってるんだね」


「まあそれが夢だったからね。評判は最悪だけど…リゼの方は大変だったんじゃない? クランのエースなんでしょ? 天下のアーセナルのだとは思わなかったけど」


「クランの偉い人から直々の推薦だったから、そこまで苦労したわけじゃないけど。まあ先輩たちから疎まれたりはしたかな」


「あのクラン、一部はエリート意識が高いって聞いたことがあるけど、それ?」


「そうそう! 始めは主力の第1部隊に配属されたのに、その人たちの反対で今いる第5部隊に所属することになっちゃって」


 俺とリゼが近況について語り合っていると、前衛職の…たしかハンスさん。が訝しむように話しかけてきた。


「えっと…ユノさんはリゼさんとどういったご関係で? やけに親しげですけど」


 どうやら俺とリゼの関係が気になるようだ。


「学院時代の友達だったんですよ。よくバディを組むこともありましたし」


「だから息ぴったりだったんですね…すごかったです」


 ハンスさんが少年のように目を輝かせた。


「い、いやそんな大層なものじゃないですし」


「そうだよハンス、これくらい少し経験積めば誰でもできるし」


「いや、ユノさんの治癒魔法のスピードはおかしいですよ」


 そう言ったのは治癒師のティーゼさん。ハンスさんと同じような視線を俺に投げかけている。


「治癒魔法を1秒以下で構築できるのは治癒魔法を使える魔法師の中でも一握りです。ウチに入ったら即戦力で採用されますよ!」


「は、はあ」


「リゼさんとの相性もいいみたいですし、ユノさんもアーセナルに入ってみたらどうですか」


 後ろから短剣を持ったホルンさんがそう声をかけてくれた。


「面白そうですけど、俺には自分の店があるので。お断りさせていただきます」


「えー! ユノが来てくれたら私も第5で我慢するのに…」


「リゼさんや、この人たちも十分に強いだろ」


 リゼの発言にツッコミを入れると他の3人もリゼの発言を肯定した。


「確かにユノさんくらいのレベルの人が入ってくれれば第5も安心ですし」


「第5には振り分け待ちの新人が集まってパーティーを組むんですけど、ユノさんレベルの治癒師がいればリタイヤする子も減るでしょうし」


「まだまだ粗削りの連中が集まりますからね」


 リタイヤというのは…とどのつまり殉職ということだ。


「え、じゃあ皆さんも新人の方なんですか?」


 俺がそう聞くと、ハンスさんが代表して答えてくれた。


「いや、俺達はその新人たちをまとめ上げる第5分隊の主分隊だ。リゼさんの実力は確かだから、上の頭の固い連中も主分隊の配属は認めてくれた」


「へえ~、第5分隊の主力なんですね」


 全然興味がなかったが、アーセナルの構成について少し知ることができた。


 どうやらアーセナルはいくつかの分隊に分かれており、それぞれに特徴がある。


 リゼが初め所属していた第1部隊がアーセナルの実力者たちが所属する主力中の主力。


 今所属している第5分隊が所属先振り分け待ちの新人が集まる部隊。


 成程、じゃあほかにも情報収集に特化した部隊とかありそうだ。


「……10秒」


「へ?」


 俺のつぶやきをホルンさんが拾い、聞き返してくる。


「ああ、いえ、気にしないでください」


 そんなことを話しながら街に到着する。


「じゃあ、俺はこれで」


 アーセナルの本部のある建物の前で、俺はそう言って別れようとした。


「えー! ユノも一緒に行こうよ!」


「いや、俺部外者だから」


 少しわがままなところは1年前から変わっていないようだ。


「いや、ユノさんも来てくださいよ。第5の主分隊全滅の危機を救ってくれたんですから」


「いや、俺は…」


「そうですよ! 皆もきっと歓迎してくれるはずです!」


「いや、あの…」


「来てくれますよね!? ユノさん!」


「…っスー…行かせてもらいましょう!」


「「「「やったー!」」」」


 同調圧力に負けてしまった……明日も店は休みかな。

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