第37話 木曜日は真矢ちゃんに襲われる。

「ふーん。お母さんと外でデートしたんだ。ホテルも行ってきたんだ。

 ふーん」


 とご機嫌斜めの真矢ちゃんは木曜日の夕方。

 帰って来るなり不機嫌な顔で僕の料理を観ている真矢ちゃん。

 なお、真弓さんは今日は遅くなると言われている。


「最後まではやってないから」

「つまりBまではやったの⁈」


 口を滑らせてしまったようだ、しまったと思う。

 確かに久しぶりに出しました。

 真弓さんのふくよかな丘で。

 なんというか、思考がシャッキリしているのは抜いたからだろう。

 間違いない。


「……ノーコメント」

「それCまでやったとみなすけどいいの?」


 真矢ちゃんの顔が下から覗き込んでくる。怖い顔でだ。


「いえ、Bです。申し訳ありませんでした」

「ふう……ならよし」


 と真矢ちゃんが落ち着こうとし、


「よくないわよ⁈

 え、何、二人ともキャッキャウフフで夜のディズニーランド楽しんできたの⁈」

「あぁ、確かに夜のディズニーランドも行ったからお土産を渡したが。ナイトパレードとか良かったよ?」

「お土産を朝にポップコーン貰ったからしってるけど、そうじゃないわよ!

 ようは、肌を重ねたってことでしょ⁈」


 真矢ちゃんが詰め寄ってくる。

 料理中なのであぶないから何とかして欲しい。


「そうだけど?」


 隠すことでも無いと開き直ってやることにする。

 真弓さんにも『大人の恋愛は身体だけで終わりじゃないんですよ』っと言われたので気楽にだ。

 これで真矢ちゃんが僕から離れていくのならそれまでの関係だ。


「うううう」


 真矢ちゃんが溜めて怒りを言うかと思ったが、


「羨ましい!」


 別次元の方向に弾けた。


「なんで、ねぇ、なんで?

 比べるなら私の処女破るのが先だっていってたよね?」

「Bだから」

「うう、そうだけど……卑怯だよ……お母さん……!」


 真矢ちゃんがそう言うので、シチューをよそいながら、


「仕方ないよ。真弓さんも本気だってことだもん」

「ううううううううううううううううううううう」


 真矢ちゃんが自分の分のシチューを受け取りながら唸る。

 ビーフシチューだ。

 朝から煮込んだ自信作だ。うまいぞー?

 とりあえず、一回休戦だとばかしに二人で無言で夕食にする。

 ガジガジとパンを食べながら睨んでこないで欲しい。

 可憐な顔が台無しだ。

 さて、終わり、二人でソファーに座る。

 それでは先制攻撃をしかけることにする。


「使える武器は使ってくるさ。それが狩りってものでは?」

「……和樹さん、少し言動が軽くなってない?」

「空港に行って世界を思い出して来たからね。

 元々の人格は堅物じゃなかったんだよ、今までのような」


 うんうんと、過去の自分を思い返し、そして真弓さんの胸の感触も思い出す。

 やはりある程度の悩みはおっぱいが解決するというのは本当の事のようだ。

 嘘のように気が軽い。


「じゃぁ、和樹さん、今日、私の処女奪ってよ!」

「ダメだ、マジメなのは昔から変わらないんだよ、僕は。

 それは真矢ちゃんを焦らせてさせてしまったら後悔する、僕も君も。

 それが判ってるからしない」

「じゃぁ……」


 真弓ちゃんが悩む。

 何というか、我儘を言う娘を観ているみたいで楽しいなぁと余裕すら出てきた自分がいるので驚いている。

 うん、確かに型にはめすぎていたのは確かだ。


「キスはディープもしたし……」

「ディープなのも、軽いのもいつでも来ても良いよ?」

「うわ、ナンパ師みたい」


 と非難してくる真矢ちゃんだが、その顔は可憐な笑顔だ。


「心配したんだよ、火曜日帰ってきたら倒れちゃって……!

 なのになのに、お母さんがこんな風に直しちゃったら、勝ち目何てなくなっちゃうううう……」


 だが、苦悩に変わる。

 コロコロと表情の変わる真矢ちゃんを楽しく観察出来るのは、自分だけの特権だよなぁと、再認識する。

 テレビとかでも演技で色んな表情をする子ではあるが、素の彼女は僕だけのモノだ。

 何というか優越感が湧いてくる。


「別に真矢ちゃんのことが嫌いになった訳じゃないよ」


 それはともかくフォローを入れることにする。


「真弓さんは真弓さんで真剣に聞いてくれた。

 もし真矢ちゃんが昨日、休みだったら、真剣に聞いてくれただろうことは判ってるからね?

 たった一つのイベントで決めたりしない」

「でも……不利になったのは確かだよね?」

「そんなことはない。

 真矢ちゃんに前より好意を抱いているのは確かだ。

 これは間違いない。

 これが恋人向けの愛なのか、子供向けの愛なのかは判らない。

 でも、僕は真矢ちゃんが他の人にとられたらイヤだと思うだろう」


 と、昼間に恋愛モノのドラマに出てた真矢ちゃんを観て思った感想を素直に言う。


「それって……嫉妬?」

「そうだろうなぁ……」


 そう認めざる得ない。

 手に入る幸せの可能性を捨てたくないというのは男のサガなのだろう。独占欲というヤツだ。


「……うう、だったら私にも愚痴きかせてよ。慰めてあげるから」

「いや、真矢ちゃんには愚痴は聞かせられないな」


 真矢ちゃんの口がバッテンになる。


「真矢ちゃんの前ではカッコいい大人でありたいし」

「ぶー。なによそれー!」

「男の見栄ってヤツだな。

 あんまり弱まってるところは見せたくないんだよ、男ってヤツは」


 と言ってやると、


「むー、きかせろー! きかせろー! 私だってお母さんみたいに頼れる女なのよー!」


 真矢ちゃんがムキになって僕の上に乗って襲ってくる。

 駄々をこねる娘みたいだなぁ、と思うと同時に嫉妬する女性の一面もあるかなと、柑橘系の匂いに包まれながら思う。


「判った判ったから、食べた後の人の腹でマウントをとるのはやめなさい」

「こうしないと逃げちゃうでしょ? 私だって和樹さんに弱音を吐いて貰える大人な女になりたいの!」


 うん、正解。駄々こねと嫉妬の両面だ。


「じゃぁ、聞いて欲しい。

 社長が意地悪をするんだ。僕に対して」

「……何で?」

「お金の為さ。元々は『顧客の為、社員の為』の会社と言っていたのにいつの間にか変わってしまった」

「それは人物が変わったのではなく、人が変わってしまったという意味で?」

「あぁ、そうさ。

 いつのころからかもう忘れちゃったけど、だから人が辞めて行ってドンドン仕事が増えていく。そしてミスしたら僕のせい、やってられない」

「ひどすぎ……」


 真弓ちゃんは自分のことののことのように真剣に聞いてくれて、そして涙を浮かべてくれた。

 泣かすつもりまでは無かったのにと慌てて、抱きしめてあげると。


「ウソ泣きだよ♡

 絶対、和樹さんなら私が泣いたら抱いてくれるって思ったもん」

「……小癪な手を……」


 手玉にとられている感覚も新鮮で嬉しい。


「ほら、私の身体はどう?」

「……真弓さんより胸は無いけど、何というか華奢で、うん――男をその気にさせてしまいそうな魅力があるね?」

「お母さん……巨乳おばけと比べるのは禁止。今は私だけを観て、それなりに大きいでしょ?」


 そしてキスをしてくる。

 啄ばむだけのバードキスで、もっともっとしたくなる欲望を湧き起こしてくれる。


「判った。真矢ちゃんだけを観るよ」

「うん、よろしい!」


 そしてもう一回、キス。

 そしてさらにキス。

 最後にフレンチ・キスをして、唾液のアーチを作る。

 真弓ちゃんの頬が火照っているのが判り、その翠色の瞳が情欲で濡れそぼっている。そんな彼女を観て抱いてしまいたいという感情がムクムクと湧き出てくるのが判る。

 だが、抑える。

 一線を越えることは容易だ。

 それを超えないことによる経験はそれ以降では味わえないぞと、業が深い囁きが僕の奥底から湧いて出てきたからだ。


「熱い……」


 真矢ちゃんが私服のシャツを脱ごうとするが、それを手で押さえる。


「んっ……♡」


 だが、手を当てる場所は胸だ。

 真弓さんよりちょっと固めの感触がブラジャー越しに返って来る。

 でもやはり真弓さんより小さいが、大きく、ずっしりと重い。


「ダメだよ、真矢ちゃん脱いだら」

「意地悪……♡」


 そうすると、真矢ちゃんが腰を擦り付けてくる。

 デカくなっているそれを欲しい欲しいと言っている様だが、与えるつもりなどない。

 代わりに強く抱きしめてあげることにする。


「苦しいよ……パパぁ♡」


 いきなりのパパ呼ばわりに僕の心臓が跳ねた。

 インモラルなことをしているとさらに自覚させられたからだ。


「でも、パパの匂いも好きぃ……♡

 ちょっと癖になりそう……♡」

「どんな匂いだい?」

「意地悪……言えないよ……♡」

「意地が悪いのはどっちだ、いきなりのパパ呼ばわりで男心をくすぐる悪い娘め」


 っと、真矢ちゃんの尻を軽くはたく。


「ん……っ♡」


 するとビクンと体を跳ねさせる真矢ちゃん。


「ほら悪い子にはお仕置きだ」


 ペシンペシンペシンと叩いていくと、ブルブルブルっと真矢ちゃんが震えだし、真っ赤な顔をする。


「真矢ちゃん、マゾ気あるんじゃない?

「わ。わかんない。でも、で、でちゃう……んん……」


 と、黄色い液体をパンツから滲ませて僕のズボンを汚した。

 おもらしだ。


「あぁぁ……」


 真矢ちゃんの顔が快楽に紅く染まり僕を観てくるが、僕はそれどころではない。


「真矢ちゃん、ソファーソファー!」

「……あ、あああ、お母さんにバレたらしかられちゃう!」


 そんなかんなで、その証拠隠滅の為に夜遅くまでかかってしまった。

 あと、真矢ちゃんに倒錯した性癖を埋め込んでしまってないか、後で心配になってしまった。

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