第39話 会社にざまぁする。

「煩い電話だなぁ」

「そうですね、もう火曜日の時点で退職代行してるので、こっちに電話をかけてくること自体おかしい話なんですけどね」


 日曜日、入院が終わってから、社長からどころか、社員からも電話が来るが放置していた。

 うるさいので、最後には一日中鳴りやまない携帯の電源を切ることにした。

 そしてその日、真弓さんとデートを兼ねて、新しい携帯を契約することにし、最期の電話だけ取った。


『助けてくれ。

 お前が居ないことでバックオフィスが回らないことに気付いた。

 経理も、総務も、何もかもだ。

 賃貸物件からのクレームも処理が追い付かない、何とかしてくれ』

『ムリです。

 これから電話を切り替えますので、以後、繋がらなくなります。

 土曜日に書面をお送りし、同日に弁護士からの退職代行の電話も行っている通り、私に連絡を入れることは基本的に、そちらが不利になるだけです。

 もし、今の家に押し掛けるようなことがあったら、僕は警察を呼びます。

 ご愁傷様でした』

『引継ぎをしないとは何事だ?!

 訴えるぞ⁈

 普通はだな……二週間はいるもんだろ』

『引継ぎに関しては社長の言っていた通りマニュアルは全部出来ていますので、それを観て頂ければ出来るかと存じます。

 それでも引き継いでないというのでしたら勝負しましょう?

 法廷で。

 出来ないのが量のせいだといっていたのがよくお分かりいただけるかと存じますので、ご経験下さい。

 それと二週間は有給でさせていただきますので、給与は払ってくださいね。

 払わないと労基署に訴えかけ気ますよ』

『まて、それでも雇ったやった恩を忘れたのか?

 何処にも行きようがなかったお前の事を!』

『その節はありがとうございました。

 確かにあなたが掲げていた顧客の為、社員の為という標語は素晴らしいモノでしたし、その時の貴方は評価に値します。

 でも、近年のすり潰しはパワハラです。

 だから社員が辞めるんです。誰の為にも成ってない会社である、それぐらい自覚してください。

 なので覚悟してくださいね?』


 以上で締めて、電話を切った。

 そして、真弓さんとハイタッチをする。

 ようやく、長年の呪縛から解き放たれたのだ。

 視野が狭くなっていた自分が、真矢ちゃんや真弓さんのお陰で視野が戻り、正しい選択が出来たのだと思うと、これは本当に運命だったのだと思う。

 それにだ。


「どうしました?」


 紅いベンツを運転する真弓さんを観ていると、赤信号でこちらを向いて小首を傾げる彼女。


「真弓さんという、伴侶を得られたことに感謝してるんです」

「えへへへ」

「そう僕に可愛く微笑んでくれる真弓さんのことが好きですよ」

「可愛い可愛い、言わないでくださいよ~。

 嬉しくて飛び跳ねちゃいそうになるんですから」


 頬を赤らめて照れ照れとする、三つ編みを横に振る、真弓さんが可愛らしくて仕方ない。


「でも、本当に嬉しい事行ってくれますね。

 今日は何処までドライブに行きますか?

 小田原とか良いですよね?

 お魚美味しいですし」

「そうですね、そこまで行きましょうか。

 帰りに蒲鉾買って帰りましょう」

「は~い!」


 僕は自由になったのだとそう思いながら真弓さんの提案に乗るのであった。

 さて、会社はどうなったかと言うと、結論から言えば、真矢ちゃんが終止符を打ってくれた。


「前、好きな人が出来たって皆を騒がせたじゃないですか?

 結局、新しくお父さんになる方で恋愛的な意味じゃないって、皆を安心させてあげれたと思うんですけど、ちょっとだけ小話があります。

 その人、みなとみらいの不動産のバックオフィスの方で、社長にムリやり働かせられてて体調壊しちゃったんですよね。

 入院ですよ? 過労で。

 信じられないですよね?

 だからお父さん、頑張れって気持ちで今日は歌いました!」


 これが全国オンエアーしてしまったのだ。

 その後、会社が特定され、社員全員が辞めて、会社の信頼も失墜し資金ショートで潰れたことは風の伝手で聞いた。

 ざまぁ、みろってもんだ。

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