第23話 金曜日のただいま。

「ただいま~」

「おかえりなさい」


 っと、わざわざキッチンから廊下に出てきた真弓さんが声をかけてくる。

 残業をして二十時帰りになってしまった。


「今、ご飯、作ってるところ何で、先にお風呂でも入って待っててくださいねー♪

 真矢ちゃんもまだなので」


 カレーだろう匂いがしてきて、お腹がきゅーっと鳴ってしまう。


「今日はカレーですか?」

「ですです♪

 良く煮込んでるので、どのタイミングでも出てきてくださいねー♪」


 楽しみだ。

 そして言われた通りに自分の部屋から下着を取り出してきて、お風呂に入る。


「あぁ……帰ってきた時に、お風呂が用意されてる生活って素晴らしいな……」


 っと、湯船に浸かりながら思う。

 一人暮らしの際には味わえなかった快楽だ。


「ただいま」

「おかえり、真矢ちゃん」

「あれ、和樹さんの声が無いけど?」

「今、お風呂入ってるから、鉢合わせ無いようにねー?」

「りょーかい」


 どうやら、真矢ちゃんも帰ってきたようだ。


「ただいま、和樹さん♪」

「⁈」


 っと、風呂場のドアを開けられる。

 そして堂々とした姿で入ってくる真矢ちゃんに僕は唖然としてしまう。


「そうスク水よ!」

「だからと言って、一緒にお風呂に入っていいわけ無いだろ……。

 僕が出るから」

「まぁ、待ってよ、和樹さん。

 私、和樹さんに触らせられたこともあるし、今更だよ?」

「あれは混乱してただけで」

「あんまり騒がしいとお母さんにばれちゃうかもよ?

 きゃー、私のこと、おじさんが襲ってきたーって言ったらどうなるかにゃー?」

「ぅ……」


 っと、悪戯っ子な笑みを浮かべて真矢ちゃんが言うので、黙って湯船に浸かったままにする。


「入るね」


 そしてその横に真矢ちゃんが座る。

 広いお風呂だけあって余裕がある。


「ふふん♪

 どう? 高校生と一緒にお風呂に入っている感想は?」

「行動が子供の考えることで、呆れてるところだ」

「ふーん、そんな意地悪なこと言っちゃうんだ、えい☆」


 するとあえて僕の前に座ってくる真矢ちゃん。

 僕の事を背もたれにしてきて、金髪からふわっとする柑橘系の香りがただようから、ふらふらとしてくる。


「どうよ、女子高生のお尻は」

「いや、どうよと言われても……だな?」

「おっぱいも触らせてあげるよん」


 僕の両手を掴んで『えいっ!』っと、自分の両胸を触らせる真矢ちゃん。

 真弓さんよりも小さいそれだが、手の平より溢れるサイズだ。

 なんというか、何にも言えなくなり、僕は表情を俯けるだけだ。


「あんっ……♡

 揉むのは禁止♡」

「僕は何もしていない!」

「ふふっ、私が揉むように誘導してるんだもんねぇ~……♡」


 さすがにこれはマズいと、僕は不利から逃げようとするが、足を掴まれる。


「洗った?」

「洗ってない……後でお風呂、入りなおすから問題ない」

「洗ってあげようか?」


 だが、


「断る」

「洗わせてくれないと、叫ぶよ?」

「……脅迫じゃないかぁ……」


 僕に反論する余裕が無くなった。


「前は禁止な?」

「うん♡」


 そして、僕が椅子に座ると真弓ちゃんがゴシゴシと泡立てたスポンジを背中に当ててくる。


「えへへ、お父さんにやってるみたいだ」

「お父さんって、そういえばあえて聞かないようにしてるけど……。

 真弓ちゃんは記憶があるの?」

「あんまりないよ。和樹さんのことだけで一杯。

 でも、もしお父さんが居たらこんなことも子供の時に出来たのかな……って、感傷ってやつはあるかな?

 えへへ~……☆」


 そう考えると確かに、父親を知らない真矢ちゃんが僕みたいな歳である男の背中を観ればお父さんと重ねてしまうのもムリの無いことかもしれない。


「何というか、エロい気分にさせたかったんだけど……。

 私が嬉しくなってきちゃって、うん、計算外。

 五真矢ちゃんポイント」

「それは予想外に嬉しいことだね」


 っと、僕自身も子供がいたことが無いが、もし年頃の娘が居たらこんな感じなんだろうなと感傷に浸ってしまう。

 頭を洗ってくれる際に胸が背中に当たったりするモノの、そんなことよりも父性が湧いて勝ってきてしまう。


「うん、前は自分でやってね?

 私、先出るから」

「あぁ、ありがとう」


 そう言って先に出ていく、真矢ちゃんにお礼を言うと、


「ううん、どういたしまして」


 天使のような微笑みで返された。

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