3月24日(金) 【オープン戦】対オリックス 敗戦(2-5)

「いらっしゃい。あら?そちらの方は……」


「会社の先輩ですよ。ホーム席、空いています?」


「ええ、いつものカウンターの席なら空いていますよ。どうぞ」


女将はそう言って、温かく迎えてくれた。今日はオープン戦とはいえ、野球があるから昨日よりにぎわっている。


「それで、何になさいます?」


東海とうかい先輩もビールでいいでしょ?」


「ああ」


「そういうことで、生2つで。あと、お勧めのアレも2つ」


「畏まりました」


席に着くなり、女将にオーダーを告げると、左程の時間がかからずに、ビールとお通しが運ばれてきた。ちょうどその時、大山がホームランを打って店内が喜びの声に包まれた。


「よっしゃ!開幕に間にあったぞ!」


「せやから、大山は大丈夫やて、言うたやろ」


「うそつけ。さっきまで開幕は原口でええやろって、おまえ言ってたやないか!」


後ろのテーブル席の連中がそう口々に言っているのが聞こえて、思わず苦笑いを浮かべた。きっと、手のひら返しが起きているだろうことは、想像に安くない。


「まあ、とりあえず、お疲れ様で」


ただ、そんなことに気を取られていたら、折角のビールがぬるくなるので、まずは先輩と乾杯した。週末のビールは特にうまい。


「となると、あとは佐藤だな」


「えっ!?」


「ほら、今の後ろの連中の会話だよ。大山が大丈夫なら、問題は佐藤だな。悩ましいよな、本当に。江越や高山みたいにならないか心配だ」


先輩はビールの追加を頼みながら、そう言った。そうしていると、青柳は同点ホームランを打たれ、佐藤はサードゴロをのんびりさばいてしまい、内野安打にしてしまった。


「青柳の特徴は、ゴロを打たせることだろ?今の佐藤の守備じゃ、たまったもんじゃないよな。サードやりたいって言っていた割に下手過ぎるわ」


「確かに今のは投げるのが遅かったですね。あと1歩早く投げていれば、アウトにできたかもしれませんね」


「だよな。ホント、青柳が不憫だ」


そうしていると、ランナーが溜まってスクイズを決められてしまった。さらに、次のイニングは代わった島本が滅多打ちをくらい、あっという間に2対5。フラストレーションがたまる。店も静かになる。


「なあ、今年の阪神って、投手王国のはずだったよな?」


「そう言われていますね」


「こないだから、打たれ過ぎじゃないか?いくら、オープン戦とはいえ、本当に大丈夫か?岩貞もケガしたみたいだし……」


今日も5回までで11安打。5失点に収まっているが、もっと取られていてもおかしくはない。


「青柳の調子もどこかおかしいし、伊藤はけがで西純も今一つ。あと、外人は総崩れで……実の所、ヤバくないか?貧打以上に、投壊の匂いがするぞ」


先輩は打たれ続けている画面を見ながら、そう呟いた。


「へい!お待ち!」


そのとき、威勢よく置いたそれは、いつものお勧めのアレ。


「今日のこれは何ですか?」


「『大山盛りポテト』ですよ。ホームラン打ったから、これにしたんですけど……作っている間に逆転されちゃいましたね……」


「ははは、確かにそうですね」


そう言いながらも、ひとつまみして口の中に放り込む。しょっぱい味がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る