第10話

 彼女が逝ってから、僕は新しい人間関係を拒否して、新たな運命の赤い糸を断ち切る事が、続いた。

 いや、違うな。

 

 逝ってからしばらくは、周囲が見えなかった。

 それからの出会いは、いろいろなすれ違いで、異性との深い関係が育たなかった。

 そして、もう会うことが、かなわない彼女に対する思いが、更に募った。


 ダウンジャケットに、お子さま天使さまが触れると、涙を流した。


「ダウンジャケットの天使の羽根は、愛を抱え込む事により、温まる。抱え込む愛が無い人間は初めてだ。だから暖かくないのだ」


 どうやら、お子さま天使には、僕も敬意をはらうべきらしい。

 同情してくれているようだ。


「このスキー場に来る途中、一瞬暖かくなったのですが」


「思い出したのだろ?しかし、その温もりは、続かない」


 なるほど、思い出というものは、甘美だが、実体のないものだ。

 その時だけ、燃え残りに火をつけ、温まる。

 しかし、思い出の時間が終わると、火は消える。

 時間は、頭の中では、圧縮されるのだろう。

 燃え上がる思い出の時間は、小さくなる。

 きっと、近い将来、僕のダウンジャケットは、抱え込む思い出の時間を失う。

 

 それにしても、困った。

 お子さま天使の言う通りなら、このダウンは、おそらく役に立ちそうもない。


「私が行きましょう」


 思春期魔女が、申し出た。

 何処に行くのだろう?


「私があなたに、ついて行きます」


 彼女は、天使なので、その心には溢れるほどの温もりがある。

 僕が新しい温もりを見つけるまで、とりあえず彼女がダウンジャケットを温める。

 

「1日くらいなら、温もりを保つでしょう」


 思春期魔女の魔力は、電池みたいなものだろうか?

 

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