ツリーハウスの森

@ramia294

第1話

 凍てつく夜にも、星は瞬く。

 露出した顔に刺す夜風は、優しさを別の季節に置き忘れたようだ。


 見上げる夜空は、あの頃と変わらない。

 雪の季節のハイウェイ。

 サービスエリアのパーキング。

 身を震わせる僕。

 山上にその身を置くパーキングが誘惑するのは、何処にも存在しないあの頃への時間旅行。


 あの頃をたどってしまう弱い心の僕。

 あの頃のふたりは、寒くても嬉しかった。

 ふたり分の熱が、あったからか?

 それとも……。

 あの時は暖冬だったのか、これほどの寒さを感じなかった。

 この自販機の前で、彼女の赤い毛糸の手袋が、僕の頬を挟んだ。

 幸せの感触だった。

 思い出に苦笑した頬が、痛いのは、寒さのせいだろうか?


 あの頃の僕たち。

 生活を営む街から、夢の世界までは遠かった。

 今も、トリップメーターの数字は、変わらない。

 しかし、毎冬の夢の時間。

 僕たちは、移動時間も楽しかった。


 自販機で購入した缶コーヒー。

 手を焼く熱が、驚くほど速く消えていく。

 あの時もこんなに、急いで温もりが、消えたのだろうか?


 パーキングを出入りする、四駆の姿。

 スタッドレスタイヤと四駆の組み合わせは、ゲレンデと僕たちの距離を近づける。


 僕のクルマもあの頃と変わらない、四駆とスタッドレスタイヤだ。

 もう二度と、スキーに行く事はないと、分かっていて、毎年スタッドレスに、履き替えていた。

 思い出すあの頃の君。


 冬が、近づく頃のあの笑顔。

 履き替えたタイヤを見て、嬉しそうにしていた、雪待ちの君。


 今は、ひとりスキー場へ向かう。

 なぜ、こんな事になったのか。

 それは、ダウンジャケット。

 今着ているこのダウンジャケットが、あまり暖かくないからだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る