もう単位で事故は起こさない


「はい。……ユリウス様は、違う街の方々と話す際、単位が違って話が成り立たなかったとか、そういう経験はございませんか?」

「単位?」

「ゴーロンとか、リテーラとか、ベクタとか、マイントとか……地域によって、あるいは街によって、それらの単位が示す数量は変わってきます。そのせいで、話が合わなかったりして、困った経験は無いでしょうか?」


 ユリウスは視線をなんとなく上に向け、考える。


「……困ったことはないけど、確かに他の貴族の人と喋ってると聞いたことないのが出てくることはあるな。えっと……アントワとか、トル、トル……なんだっけ」


 貴族の子は、幼少期から社交界に出ることが求められる。まだ未成年のユリウスだってそれは同じで、シャルよりもよっぽど広い交友関係を持っている、はずだ。


「トルーラですかね。箱なんかの重さを測るときの単位です」

「あーそうだそうだ。それでお父様が前に言ってたな。『初めての商人と取引したときに、数量を勘違いして大損しそうになった』って」


 やっぱり、そういう話はいろんなところであるのだ。

 シャルは自分の計画の必要性を、さらに強く感じる。


「そうですか……商人同士の間でも、単位や数量を間違えたということはありますし、あるいは、それが最悪の場合、人の命に関わることもあります」


「……命?」

「はい。……先日わたしの父が毒キノコを食べて倒れたのも、原因は若い料理人が単位を間違えて、分量を勘違いしたことが結果でした」


 ユリウスの驚く顔が、シャルにもはっきりわかった。


「……単位を間違えると、人が死ぬのです」

「死ぬってそんな……」


 そう言いかけて、でもユリウスは腕を組む。

 シャルの今までにない真面目な顔つきは、ユリウスの気持ちも動かす。

 いつの間にか、エルビットも静かになって、シャルの隣で座っている。


「……だからわたしは、この国にあふれる単位を統一したいのです。今後起きる大惨事を、未然に防ぐために」


 ――大惨事。

 もしあの毒抜きを失敗したキノコが、パーティーで大勢の人に振る舞われていたら、本当に大惨事になるところだ。

 シャルの言葉に、冗談や誇張表現は何一つ無い。


「――それって、可能なのか?」

「時間はかかると思います。でも、いつかはやらなければならないことです」


 ユリウスは考え込む。

 ――正直、途方も無さすぎて想像もつかない。

 そもそも、単位が違うというのを疑問に感じたことがなかった。それをわざわざ揃えることに、どれだけの意味があるのか。


「ユリウス様。今すぐ理解していただきたいわけではありません。でも――今は一つだけ。わたしがこれからやることは、この世界に必要なことなんです。セーヨンや、モートン男爵家にとっても」


「……シャルがそんなに言うんだから、そうなんだろうな」

 ――あっ、今理解を投げたな……まあ良いか。

 シャルもすぐ分かってもらえるとは思ってない。

 そんな簡単な計画では、無いのだ。


「ありがとうございます。それとユリウス様、もう一つお願いがあります」

「なんだ?」

「この後、この計画を男爵様と、わたしのお父様に話します。そのときに、一緒にいてくださいませんか?」


「――いいぜ、そのくらいなら」

 ユリウスの顔が、ちょっと赤くなったような気がした。


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