生態記録

@てくび

第1話

 X月某日。

 K国T町にて、人型の生物を捕獲。

 我々は、その生物を観察し、生態を書き留めることとした。

 以下は、その生物の生態記録である。


 体格は十代から二十代、三十代から四十代の女性または男性。十代未満の可能性があることも棄てきれない。

 生物の肉体は、女性にも男性にも該当しない。

 一人称が明確でない。俺と名乗るときもあり、私と名乗るときもある。また、職員がその生物を呼ぶときにも、呼称の差異があった。

 人間と同じ知性を持つ。十問程度の簡単な計算をさせた結果、全問正解。

 ただ倫理・道徳・人間性においては、我々とはかけ離れた価値観を持っていた。


 それは、よく自分を語る性質であった。

『私はこの町全ての女性を妻にしている』

『俺が道を通るとき、人々は脇に避けてひさまずく』

『勇者と名乗る者に出会ったが、たいしたことなかった』

(以下省略)

 これら全て、根拠のない自語りである事が我々の調査で判明した。


 それは、自分を正義と信じる性質であった。

 下っ端職員のひとりによって行われたチェス遊びに全敗したその生物は、どれもにおいて負けを認めなかった。

 その生物は、ズルをする事が発覚した。

 『ズルなんてするはずがない。その男が言いがかりを付けただけだ』

 その生物は、午後一時三十二分から三十分程度、同じ言葉を繰り返していた。


(危険! この生物は暴力的! チェスをした職員による報告)  


 それは、傷つく事がなかった。

 男性職員が刃物で傷を付けようとしたが、皮膚が硬く損傷することはなかった。

 また、その生物に物体を落下させた場合、近くの職員への物体の移動を観測。


(メモ、該当する男性職員は解雇すること! 職員指導部へ報告!)


 それは、女性に従順であった。

 女性職員を被験者として同室で一時間放置したところ、大きな変化は見られなかった。

 だが、当女性職員は酷く怯えていた。


(※辞表が貼り付けられている※)


 

 総評。

 我々は、その生物を危険性があると認識した。だが生物兵器として使用すれば、我が国は他国に対して有利に立てるかもしれない。

 後日、その生物本人と面談をすること。

 細心の注意を払うため、場所は地下の大部屋とし、護衛に職員を男女ともに十人ずつ配備すること。

 医師を現場に近い部屋へ配備させないこと。

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