第42話 再会と裏切りの抱擁②

「捕まえて‼」


素早く飛んだカトリナの指示に、通路からひとりの青年が飛び出してきた。

青年は逃げようとするユリアを体で受け止め、その腕をユリアの背に回した。


「放してっ‼」


逃れようとしてもがくと、背中に回された腕に力がこもる。

青年はユリアを抱きすくめ、ユリアの肩に顔を埋めるようにして、首を垂れた。


「⁉」


それは捕縛というよりはむしろ、どこか愛しい者を抱き締めるかのようだった。


「カイ……?」


ユリアが囁くように問うと、青年は緩慢に顔を上げた。

その横顔は紛れもなく、カイだった。

ユリアはほっとして、


「助けに来てくれたんだ。良かった。兄様が捕まってるの! 助けるの手伝ってくれる?」


捲し立てるように言うが、カイの反応はない。

そういえば、カイの様子がいつもと違う気がする。いつも肩に乗せている、漆黒のエルバートの姿が見えない。


「あれ? エルバートは?」


カイはユリアの肩に手を置き、強引に引きはがす。

それから、無言でユリアの腕を強い力で掴むと、青い広間へと歩き出す。

ユリアは半ば引き摺られるようにして、再び青い広間へと引き戻されてしまった。


「カイ、どうしたの⁉ 変だよっ⁉ ねぇ、何とか言ってよ‼」


青い光の当たったカイの無表情の顔は、ひどく冷めて見えた。

ユリアの中にざわざわした嫌な感覚が広がっていく。

カイは掴んでいたユリアの手を勢いよく引っ張って、床に打ちつけるようにユリアを投げ飛ばした。


「……っ‼」


ユリアは黒光りする床にしたたか尻を打ちつけた。


「何するの⁉」

 

痛みに顔を顰めながら、無表情のカイを見上げる。

そこにあるのは、ユリアの知っているカイの顔ではなかった。

ユリアは既視感を覚え、眩暈に襲われる。

一刻程前にも同じようなことがあった。

けれど、そのときとは比べ物にならない程の衝撃と、激痛が全身を駆け巡る。


「裏切ったの……?」

 

呟くように漏れ出た声は、驚くほど震えていた。

数年来の付き合いのカイと、遠目から見てなんとなく憧れていたカトリナとでは、関わり合った時間も、思い入れも全然違うのだ。

絶望にも似た感情が、ユリアの心を黒く染め上げる。


「大切だったのに……」

 

師匠の山小屋で過ごした日々は、ユリアにとって何より大切な時間だった。

いつも温かく見守ってくれる師匠と、お兄さん気取りのフェリクスと、そして、口が悪いのに、世話焼きのカイとの時間が。ユリアにとってはきらきらした大切な宝物だった。


「カイのこと、何だかんだ気に入ってたのに!」

無表情を通していたカイが、わずかに眉を動かした。


「悪いな、ユリア」

カイはユリアの目を見ずにそう言い捨てると、青く光る壁に向けて歩き出し、その壁に腕を組んで寄りかかった。


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