現代魔女のサバトはスポーツ大会?!

宇佐はなこ

第1話 いざ出発!

魔麻マアサ!今日はサバトなんだから寄り道せず帰ってくるのよ」

「はぁい」

 母の声を背中に受け止めて私は家を出た。

 もう何ヶ月も前から今夜行われる年に一度の『魔女対抗魔法のほうきマラソン大会』の地区予選大会に向けてトレーニングさせられてきたのだからサバトを忘れるわけない。

 だが、2年前まだ中学生だった頃に忘れたふりしてサボったことを忘れてないぞ、と釘を刺すための言葉だろう。

 もう一度バックレようとした去年は友達とカラオケに行こうとしたところを母の使い魔であるサモエドのさっちゃんに文字通り首根っこ咥えられて引きずられて帰宅した。

 周囲からジロジロ見られるわ、その姿をSNSに晒されるわ、警察からは事情聴取されるは……思い出したくもない黒歴史となってしまった。

 ただでさえ魔女ってだけで周囲から浮いて目立ってしまうことが多いんだから勘弁して欲しい。

 ということで今年は素直にちゃんと帰りますよ。それが一番傷が浅い。

 

 

「はぁ……めんど」

 昼休み、ご飯を食べながらそう漏らすと一緒に食べていた友人の英里えりが「そんなに?」と苦笑いで聞いてきた。

 ちなみにこいつは去年さっちゃんに連れ去られる私を手を振りながら動画撮影してた非道な女だ。ケーキバイキングのおごりがなかったらこの友情は一年前に終わってたわ。

「昔のサバトは飲めや踊れやピーしたりのパリピの集まりって感じだったらしいんだけど、現代は成人年齢が引き上げられたうえにかっちり決められちゃったせいで未成年が参加することを考えて健全なものに……って考えた結果箒マラソンだよ?なんでご褒美もないのにそんなしんどいことしなきゃなんないんだか……」

 はぁ、とため息が漏れる。

「まぁ面倒なのはわからんでもないけど箒乗ってるだけでしょ?」

「はーい!出ましたー!一般人の魔女差別!乗ってるだけってねぇ、アレどうして浮いて飛んでると思ってんの?箒にエンジン着いてるわけじゃないんだよ。自前の魔力と気合いと体力で飛ばしてんの!そりゃ走るよりかは距離飛べるし?楽だったりもするけど大会で飛ぶ距離どんだけか知ってる?420.1950キロって!出発地の東京から大体岡山まで飛ぶの頭正気なのかと聞きたい!」

 はっ!いかんいかん、エキサイトしすぎてお弁当を膝から落とすところだった。

 しゃなり、とお優雅に座り直してこほんとひとつ咳払い。

 向けられた英里の視線がご愁傷様wwと語ってる。

「しかも開催地までも自力で行かなきゃだし。うちはお金ないから箒で飛んできなさい、とか言うんだよ?つらみしかない……」

 お母さんの時代はまだギリパーティーじみたサバトだったらしく気軽に言ってくれる。まぁその頃は親同伴のお見合いパーティーだったらしいからそれはそれで……って感じはするけど。

 でもやっぱり約420キロの長距離を淡々と飛ぶよりもキャッキャウフフの二人三脚ならぬ二人一箒ににんいっそうで息を合わせた夜空ランデブーの方がよっぽどマシだ。そりゃ好みじゃない男子に当たってしまう可能性はあるし、下手したら人数余った女子同士ペアになることもあったらしいけど。

 うちの両親は二人一箒で意気投合して結婚したらしい。

 やっぱり異なる魔力を合わせるのって難しいらしくて箒をまともに飛ばせるには譲り合いとかコミュニケーション能力が大切らしく、父とはまさに気があった、と母は語ってた。

 知り合いの両親でも同じように二人一箒がきっかけで結婚したってとこもあったし、案外結婚相手を見つけるには最適な方法だったのかもしれない。最近は魔女同士の結婚にこだわる家も減ってきてるし、私自身も結婚相手は自分で探したいとは思ってるけどマラソン大会になっちゃうくらいならお見合い大会の方がマシだったと切実に思う。

 今からでもサバトの内容変更しないかぁ……なんて思いながら昼食を終えた。

 

 

 放課後まっすぐに家に帰り、母が用意してくれてた大会衣装に身を包んで箒を手に持つ。

 鏡に映るその姿は箒を手に持った魔法少女だった。

 おい……。おい!今年の大会運営者!!なに考えてんだーー!!

「ばっかじゃないの?!」

 思わず叫ぶ私の背後で母は肩を震わせて笑ってる。

 いや?笑いごとじゃないんだが?

 毎年大会衣装はその年の運営者個人の趣味で選ばれることが多いのだがコレはない。何が悲しくて魔女が魔法少女の格好しなきゃならんのさー!

 こんなフリフリスカートなんて5歳の頃でも履いたことないわ!しかも色が白地にピンクのレース縁取りなんて夜空に目立ちすぎる。そのうえ胸元のでっかいリボンは笑えと言わんばかりで……。

 イタイ。高校生にもなってこんな出来の悪いコスプレみたいな格好で箒に股がって夜空飛んでるとかSNSにまたあげられて明日学校で影で笑われるやつだ!魔女にだってプライバシーあるんだからな!万が一私の姿があげられてたら肖像権で訴えるぞ!

 もうマジで最初からなかったやる気がマイナス値ぎゅんぎゅん更新してる。

 笑いっぱなしだった母はポンと私の肩に手を置き、

「まぁまぁ、向こう着くまでは姿消しの魔法かけてあげるから頑張ってらっしゃい」

 杖を取り出しさっと魔法をかけてくれた。

 鏡に自分の姿が映っていないのを確認して私はがっくり肩を落としながらベランダに続くガラス戸を開けた。

「いってきまぁす……」

「いってらっしゃい!頑張ってくるのよ」

 そう言って差し出された母特製の栄養ばつぐん携行食の入ったバッグを箒の柄にセットして私は旅立った。

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