第41話 フェロちゃんが僕にべったりなワケ
ひとまずフェロちゃんが僕側についてくれたので事なきを得た。
意思疎通は相変わらずできないけど、僕の意思は汲んでくれたようだ。
おかげで今日の残りは普段通りに食事を済ませ、就寝へ。翌日には幻ちゃんに事情を伝えた上で再び旅館へと出勤を果たせた。
「まぁ! フェロさんが夢路さんの家に!?」
「えぇ。なんとか体質的に問題無かったようで平気だったんですが、すぐ旅館に戻れなくてちょっと心配でしたね」
「むむー……規律よくするためにと移動制限機能を入れたのが仇となりましたか。これは後で従業員章の能力を修正しておかねば」
とはいえ、エルプリヤさんは特に怒っている様子もない。
それどころかフェロちゃんの前で屈み込んでは、心配そうに頭を撫でていて。
「しかし勝手に出てしまったのはいただけません。とても危ない事なのですよ?」
「ごめんネ。でもボクどうしてもユメジの故郷を見てみたかったんダ。ボクの故郷とどれだけ違うのかって気になっテ」
「そうでしたか。まぁ旅館から出るのはかまわないのですが、ちゃんと相談してからにしましょうね? そうすれば対応できない事もありませんから」
「ハーイ」
どうやら外に出てはいけないというルールまでは存在しないらしい。
だからか、エルプリヤさんは撫でてあげた後には優しく微笑んでくれていた。
これには僕もホッと一安心である。
「夢路さんも災難でしたね。さすがに私も勢いで飛び出しちゃう事までは想定していませんでした。申し訳ありません」
「あぁ~僕は平気ですよ。むしろ何事も無くてで良かったし、賢い妹が機転を利かせてくれたおかげで不安も取り除けたしさ」
「そうでしたか。それは是非とも妹様にお礼でもしたい所ですっ」
そんな訳でお咎めも無く、平和的に問題も解決。
……ただし旅館側の問題だけ、だけども。
「そう言うと思って、妹を連れて連れてこようと思ったんですけどね。でも移動したらいなくて、どうしたんだろうって」
「あら?」
実は幻ちゃんもこの際だからと旅館に連れてこようと思っていたのだ。
フェロちゃんの事も知ったし、異世界の事を信じさせたかったし。
けれど従業員章を使っても、呼び込めたのは姉さんだけで。
それが不思議で、今さらながらに首を傾げる。
するとエルプリヤさんが何かを閃いたのか、手を打つ仕草をして見せた。
「実はですね、当旅館には『人の性格や性質的に来てはいけない人物』というカテゴリが設けられていまして。そこに当てはまると旅館に来る事ができないのです。もしかしたら妹様はそのカテゴリに含まれる方なのかもしれません」
「ちなみにそのカテゴリの内訳は?」
「異世界を許容できない方、自分以外を信じない方、すべてを否定する方、など基本が否定的なスタンスの御方ですね」
「うんごめん、無理でした」
それでこう理由を語ってもらえたのですぐ合点がいった。
幻ちゃんまさかの出禁対象でお兄ちゃんビックリです。
まぁ仕方ないよね、フェロちゃんを前にしても半信半疑だったし。
僕達とちがって現実主義の科学者みたいな子だから異世界とは無縁だろうし。
なので諦めて、幻ちゃんには現実だけで生きてもらおうと思う。
今頃きっと僕達だけ消えて地団駄踏んでいるだろうけど。
「キョウカ来れないの残念。ボクあの人とちゃんと話してみたかっタ」
けど、それをフェロちゃんは残念がってくれているようだ。
やっぱり色々と世話してくれたし、幻ちゃんに恩義も感じているんだろうね。
なんて健気な子なのだろうか。
「キョウカいい人だっタ。ボクの話を聞こうとしてくれたシ、ボクの体を色々撫でてくれたし
「……あとで幻ちゃんには事情聴取が必要だね(ニッコリ)」
「やだ夢君なんか怖いわ! お姉ちゃんとばっちりが怖いわ!」
「ふふっ、よほど楽しい時間を過ごされたのですねっ、羨ましい」
「いやここは羨ましい所じゃないですからねエルプリヤさん!?」
でもそんな健気な子を、知らないからとやりたい放題なのはいかがなものか。
幻ちゃんには後で指導を入れなければ。これは決定事項だッ!
今になってわかった事だけど、姉も妹も強気に出ないと言う事聞かないし。
「……所でフェロちゃん、僕らが合体させられそうになった時、よく僕の意思に気付いたね? あの時もう諦めていたんだけど」
「アー、あれなんかユメジがとても困っているように見えたんダ。だから『助けないと』って強く思ったラ、稲妻がビビーッて出たんダ。ボクもビックリだヨ。アレ、ボクの一族が大人にならないと使えない秘術だかラ!」
「そっか……そのおかげで助かったよ。ありがとうね、フェロ」
「ウンッ!」
ともあれ、あの時はフェロちゃんのおかげで本当に助かった。
まさか秘術まで使えるようになるなんて思っても見なかったけどね。
「でもボク、ユメジとなら合体してもイイ」
「……え?」
「一族のオキテ、『命を救ってくれた者には一生を共にするか、仕えるべし』ってあるんダ! そういう訳だからネ~~~ッ!」
「あ、ちょ、フェロちゃん!? ……行っちゃった」
しかもそのフェロちゃんはなんか爆弾発言だけ残して旅館の奥に消えてしまった。
いくら掟に従ったからとはいえ、少し大胆過ぎやしないだろうか。
嬉しいとも思う反面、なんだか複雑だ。
あの子には普通に恋をして好きな人と添い遂げて欲しいなぁなんて思っているし。
親心ってワケでもないのだけど、なんだか放っておけない子だから。
「ふふっ、フェロさんが夢路さんを慕っているのは本当ですよ」
「え、そうなの?」
「えぇ。なにせあの子は助けられた時から夢路さんを迎えに行くまで、ずっと『夢路に逢いたい。ボクを助けてくれた大好きな人』って何度もつぶやいていたくらいなんですから!」
「そうだったのか……」
それはもしかしたら僕が彼女を助けたって実感があるからかもしれない。
彼女も「僕が助けてくれたから好きだ」って思ってくれているのと同じように。
もっとも僕としては彼女を『好き』の対象にできるかどうかはわからないけれど。
気になりはするけど、やっぱりまだ子どもって認識の方が強いから。
ま、素敵なレディに成長したらどう思うかはわからないけどね。
「実は夢路さんが旅館から出たあの時、フェロさんはすぐ目を覚ましたんです。それで事情を聞き、彼女の故郷が魔物に襲われていると知りました。それで私達は彼女の意思を汲んで、故郷を救いに向かったのですよ」
「そ、そんな事があったんだ」
「しかし残念ながら故郷の方はもう手遅れで」
「そっか……そんな裏事情があったなら仕方ないよね」
……なるほど、そういう経緯があってフェロちゃんは旅館に残ったんだな。
加えて僕への想いがあったから今日まで頑張ってこれたのだろう。
やっぱり健気なんだなぁって再認識させられたよ。
そして帰る場所を失ったからこそ、慕う僕の故郷を見たいと願った。
それならつい付いてきちゃったのも仕方ない事だと思う。
「ですので女将ビームですべてを焼き尽くし、彼女の無念を払ってあげたんですっ」
「容赦無いね女将ビーム!? 無駄な殺生しないって言ってなかったっけ!?」
「滅ぼしていいのは滅ぼされる覚悟のある者だけですので、そういったケースの場合は躊躇わない事にしているのです」
「この旅館に武力で逆らっちゃいけない事だけはわかった」
なら今度お願いされたら、堂々と対策をした上でまた連れて行ってあげよう。
魔物に襲われる心配のない、安心な世界を存分に楽しんで欲しいからね。
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