第3話:わ、私、戦闘とか全然得意じゃなくてぇ〜


「これが私の配信のサムネ……すごい、私、本当に配信者になれたんだ!!!」


 ダンジョンの入り口前で、田中さんが見せてくれた私の配信サムネとタイトルを見て、ますます自分が配信者になったんだって実感が湧いてきた。

 今まで自分は見る側だったから色んな配信者さんのサムネを見てきたけど、やっぱり自分のは格別によく見えちゃう。制服姿の私、可愛いなぁ〜。

 面接の時に制服で写真を撮ったのはこのためだったんだ。田中さん、素敵なサムネを作ってくれてありがとうございます!


「え……このミヒロちゃんのサムネなんかエロくない? スカートのところ際どいというか……BANされるんじゃ」


「大丈夫大丈夫、ヤーチューブ(大手動画配信サイト)君もこれぐらいは許してくれるって」


「露骨なエロ釣り……しかも本人は全くそんなこと考えてなさそうだし。で、私のは?」


「ない。売れないタレントのサムネを作る理由なんてないから!」


「ぐはっ!」


「よし。じゃあミヒロちゃん、ダンジョン入るよー、はいこれ配信用のスマホ。これは三大企業が一つ、【テクノロジア】製の付属小型ドローン付きだから勝手にダンジョン探索の模様を撮影してくれるの!」


「え!? これ、確かカモライブとかのタレントさんたちが使ってるやつですよね? でもすごい高かったんじゃ……?」


 田中さんから渡されたスマホはめちゃくちゃ高い。少なくとも、大人でも買うのを躊躇するぐらい高い。

 だって私も実家で配信をしようとした時に買おうと思ったけど、あまりの値段に諦めざるを得なかったんだもん。

 

「気にしないで。ミヒロちゃんはこれからの「たまこし学園」を背負っていくエースなんだから。これぐらい大したことない必要経費だって」


「た、田中さん……」


 絶対無理をしてるのはわかりきってる。だって田中さん、顔は笑ってるけどぎこちなさすぎるし、このスマホ見ながら顔に冷や汗かいて手をブルブルさせてるんだもん。絶対借金とかして買ったんだ……。

 

 でも、それぐらい私に期待してくれてるってことだよね。よし、絶対早く人気になって田中さんに恩返しをしないと!


「え、いいな。私には?」


「はい、カズサには自撮り棒」


「やっぱり……」


「さーて、ミヒロちゃん。私は近くで配信の確認とかしてるから、何か困ったらすぐに呼んでね」


「はい!」


「よし、そんじゃ配信始めー!!!」


 そしてついに、いよいよ! 私の一生に一度しかない初配信が始まるのです!


「……あ、一人来た! は、初めまして……わ、私、今日から配信を始めた「磯部ミヒロ」って言います! 来てくださいってありがとうございます!」


 ダンジョンの中に入って、早速配信を始めるとすぐに1って同接の文字が表示される。すぐに私は精一杯、ニコニコとしながら手を振って挨拶をした。せっかく来てもらったんだもん、挨拶と感謝はしっかりと伝えないといけないよね! ……あ、あれ?


「ぜ、ゼロになっちゃった……」


 でも、そんな嬉しい気持ちもつかの間。すぐに数字はゼロになって、私の配信を見ている人は誰もいなくなっちゃった。な、何かダメなことしちゃったかな?


「気にしないで配信進めて大丈夫。最初来た人がいなくなるのはよくあることだから(そういう私もまだ0なんだけど……)」


「か、カズサさん……あ、ありがとうございます!」


 落ち込んでいる私を見て心配してくれたのか、カズサさんはすぐに優しく声をかけてくれた。良かった、優しい先輩がいて。そうだよね、最初から挫けてちゃダメだよね!


「何か面白そうなものは……あ、あそこにスパイダーがいる! 可愛い〜♪」


 何か配信の話題になることはないかなって思ってダンジョンを進んでいくと、可愛らしいスパイダーがよちよちと壁を登っているのが目に映った。

 私、スパイダー大好き! 足が多いところとか、壁を登るのが上手なところとか見てると癒されるんだぁ。

 そうだ、カズサさんにも教えてあげよ! よいしょ、スパイダーさんを抱っこしてっと……。


「カズサさんカズサさん! 見てください、可愛いスパイダーですよ!」


「え、スパイダー……ぎりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 あれ? カズサさんスパイダー苦手なのかな? 悲鳴を上げてすぐに距離を取られちゃった。うーん、こんなに可愛いのに怖がっちゃうなんてもったいないな。


「田中さーん、スパイダー見つけましたよ〜。可愛くないです……え?」


「!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?(無言の悲鳴)」


 今度は田中さんに教えてあげようと思って近寄ろうとした。だけど、どうしてか目をガンガンに見開いてクビを横に振り続ける。そっか……田中さんも苦手なんだ。

 でもびっくり。地元じゃみんながスパイダーを可愛がってたから、こんなに嫌がる人がいるなんて想像もしてなかったなぁ……あれ!?


———

「可愛い子がスパイダー抱えてて草」

———


 こ、これってコメントだよね……わ、私の配信に書かれたコメントだよね!? や、やったぁ……あ、見てくれている人も2人になってる! よ、よし、ちゃんとお礼と挨拶をしないと!


「み、みなさん見てくれてありがとうございます! わ、私、今日初配信の新人、「磯部ミヒロ」って言います! 来てくださいってありがとうございます!」


———

「めちゃくちゃ清楚」

「タイトルに偽りはなさそう」

———


「あ、ありがとうございます!」


 みなさん私のこと褒めてくれる……う、うれちい。ついつい笑顔がこぼれちゃう。で、でもここで気が緩んじゃダメだよね。みなさんのこと、いっぱい楽しませて笑顔にしないと!


「みなさん見てくださいこのスパイダー、すっごい可愛くないですか? この子の足すっごく綺麗ですし、このシマシマ模様もさいっこうですよね!」


———

「女の子がスパイダーをこんなに楽しそうに語るとこなんて初めて見た」

「スパイダーにビビらないとか戦闘得意そう」

———


 あ、あれ? みなさんもあんまりスパイダーのこと好きじゃないのかな? 

 でも女の子だってスパイダー好きなのは普通じゃないの? 私の幼馴染ちゃんはペットにビックスパイダー飼ってるし。


 それに私、そんなに戦闘得意じゃないもん。おじいちゃんからはまだまだ未熟者って言われていたし、何より私は清楚! 

 清楚な女の子は戦いなんか得意じゃないってのはみんなの共通事項だよね!


「そ、そんなことないですよ。私、戦闘とか全然得意じゃなくて〜」


———

「可愛い、これは清楚」

「やっぱこれは清楚だ」

———


 えっへへへへへ。みんな清楚とか褒めてくれる……承認欲求が満たされる……えっへへへへへへ♪

 こんなみなさん褒めてくれるから、みなさんのことを楽しませられるように何かしないと! 何があるかな———あれ?


「やべえやべえやべえやべえ! あ、アンチが、伊藤健一のアンチがとんでもねぇモンスターをこのダンジョンに仕込ませてやがったああああああああああ!!!!!!!」

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