第六夜 禁断の地下室

 外の雪がやんで青空が見えた日の朝の事。

 庭の片隅で溜まっていたのであろう洗濯物を物干し竿に干している人がいた。

 メイドの亜美さん──一昨日の夜にて共に快楽を共有したそれなりに深い関係になったが、立場は変わる事もなく普通にお喋りに興じる。


「やっと晴れたねー。亜美さん」

「ええ! 溜まっていた洗濯物も全部干せそうです」


 外は雪が降り積もった後だから一面白銀の世界だった。

 亜美さんは鼻歌をしながら洗濯物を干していく。  

 すると──とある鍵が服から落ちて雪の中に埋もれてしまった。  

 亜美さんは鍵が落ちた事に気付いていない。まあ鍵が落ちたのは一瞬の出来事だったからね。

 亜美さんが他の洗濯物を干している時に俺はさっき落ちた鍵を雪の中から拾った。

 鍵の材質は真鍮製で、単純な構造の鍵だった。

 一体、これは何処の鍵なのだろうか?

 亜美さんに訊けば判るのだろうか?

 ベッドのシーツや洋服やらを天日に干している亜美さんにこの鍵は何なのか、聞いてみた。


「亜美さん」

「何でしょうか?」

「さっき雪の中からこんな物を拾ったんだけど──」


 亜美さんは俺の右手に握られている真鍮製の鍵を見て、顔が真っ青になってそこ鍵を渡すように迫ってきた。


「その鍵は──!」

「松下様! それはあなたが持っていてはなりません!」

「どうしたの? この鍵は何処の部屋の鍵なの?」

「いいから私に返してください」


 そんな事言われると、何処の部屋の鍵なのか知りたくなるじゃないか──。

 ダメだと言われるとやりたくなる、覗きたくなる──それが人間の性ではないのだろうか?

 俺は鍵を返すついでにその鍵が何処の部屋に入る為の物なのか教えて貰おう。


「わかった、返すからお願いを聞いてくれないかな?」

「何でしょうか?」

「一体、その鍵で入れる部屋は何処の部屋なのか、どんな部屋なのか教えてくれないか?」

「そ、それは──」


 そこで亜美さんの顔が更に真っ青になった──。まるでそれはできませんと言っているように見えた。

 そんなに俺に見せてはいけない部屋なのだろうか? 一体、どんな部屋なのか──知りたい。


「あの、松下様。ここで、この場で、私を抱いて下さっても構いません。でも、その部屋を覗く事は絶対に松下様にはさせられません!」

「──いや、俺はその部屋を一目で良いから見たいんだ。この『黒猫館』には俺が知らない場所が多すぎる」

「ダメです。その部屋を観たら奥様にどんな仕打ちを受けてしまうか──判らないからそんな事を言えるのです!」


 その部屋を覗くと奥様から仕打ちがくる?

 でも、一瞬だけ見るだけならいいんじゃないか?

 俺は譲らない、いや譲れない。


「その部屋まで案内してくれないかな? 俺を連れて、鍵は君が開けて俺がその部屋を観たら引き上げるから──」

「松下様。『黒猫館』は覗いてはならない場所が他にも沢山あります。目撃したらあなたは猜疑心に支配されてしまいますよ?」

「──一瞬見るだけでも駄目なのかい?」

「一瞬だけで満足するような方には松下様は見えません」


 まあ、当たりだな。 

 知ってしまえばそれを味わい尽くしてみたい。

 俺の悪い癖だ──。 


「──その悪癖は痛い目に遭わないと治らないものだと思うよ」

「どうなっても知りませんからね──」


 亜美さんは残りの洗濯物を干し終わると、俺をその真鍮製の鍵で入れる部屋に案内すると俺をその部屋へ連れて行ってくれた。

 ただし、何が起きても大声を上げてはならない、言いふらしてもならないという条件を出された。

 それだけで何やらいけない部屋かもしれないと思う。

 その部屋へは地下を通って行くらしい。

 一階のとある部屋に備え付けられている地下へ続く階段を降りる。

 灯りはローソクの明かりのみ。

 二人の階段を降りる音が響く。地下へ向かう階段は足音が反響するのか、履いている靴の擦れる音がコツコツと響く──。

 俺はそこで『黒猫館』の見えなかった闇を一部分だけを目撃する事ができた。

 地下には複数の部屋があった──。

 それぞれが重く固く扉が閉ざされている。

 真鍮製の鍵で開く部屋は真正面に控える部屋を開ける為の物で、その部屋を開ける前に亜美さんは、俺に振り向いて確認を取るように見つめた。

 よろしいですね──? という確認だろう。

 俺は場の雰囲気を察して黙って頷く。

 鍵が差し込まれ、扉が開かれる──。

 

「どうぞ──」


 そこで俺は信じられないものを目撃してしまった。

 複数人の男達が拘束具を装着され、身体的な虐待や性的な虐待を受けて、痛みに喘ぐ男達の声が響いていた──。

 亜美さんは身を隠すのに丁度良い箱に俺を誘導してそこから覗くように指を示す。

 何とそこには女性の姿が他にあった──!

 その人は何と、鮎川雪菜様ではないか!

 呆然自失する俺はその衝撃的な光景に目を奪われてしまう。

 雪菜様が、拘束具で身動きが取れない男達を自身の身体の慰み者にして、花びらを無理矢理舐めさせられたり、雪菜様の脚で男性の象徴(シンボル)を虐めたりしている──。

 異常で──扇情的で──背徳的な光景。

 雪菜様の冷たい声が地下室に響く。


「フフ──良い光景だわ──。こんな美しい男達がこの私に平伏し、快楽を求め、私に奉仕をしてくれる──。ああ……花びらを舐められる快楽も堪らないわ──もっと舐めなさい。もっと」


 脚で虐められる男は情けない声で雪菜様に懇願している。


「アアッ! 雪菜様──雪菜様! もっとそこを、脚で踏んでください! 俺の憐れなココをお慰めください!」

「あら? そんなに気持ちいい? ほら! どうだい? 気持ちいいだろう?!」

「アアッ! 幸せです! 雪菜様──!」


 そこに雪菜様の怒りの声が聞こえた。


「誰!? そこで覗いている卑しい奴は!?」


 まさか──!


「その箱の陰に隠れているお前だ! 誰かしら? 当ててやろうかしら? 誰かを?」


 バレているならもう隠れる必要も無いか──。

 俺はその箱から身体を起きあげて、姿を見せた。

 雪菜様のまるで嬲るような冷たい眼が俺を見つめる──。


「フフ──あなたですか。松下さん──」

「あなたも興奮して戴けたかしら?」


 雪菜様は左足の側で喘ぐ男の分身をハイヒールで踏んで嬲りながら聞いた。


「あなたもお望みならばやってあげても宜しくてよ──?」


 俺はそこで背中に冷たい汗が流れるのを感じた──。

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