第29話
事務所に入るとモカとリンが高そうなソファーにでんっと座る。
なぜかタバコを吸ったフリをしながらモカが切り出す。
「おじきぃッ! 蘭童の野郎がバニースーツ着ないって言うんじゃあ!」
「なんだとぅッ! おう、蘭童! バニーきたれ! わしらスターライト組の意地を見せんかぁゴラァッ!!!」
がんっとリンがテーブルを叩く。
はい茶番。
「ヤクザごっこやめろ!」
なんなのお前ら。
紫苑もテーブルに足を乗せて俺に詰め寄る。
「逆バニーでもいいぞゴラァッ!!!」
「紫苑ステイ!」
「クーン……」
バカどもをどうしてくれようか。
「はいはい茶番はやめてください。それでみなさんをお呼びした理由ですが」
「呼んだ?」
「あ、はい。呼んだら暴走しました。で、理由ですが、ユニットを組んでもらいます」
「ユニット?」
「ええ、次世代型アイドルとして四人組ガールズバンドを組んで……」
「俺、男」
「ガールズバンドとして……」
「男」
「晶ちゃん……聞いてください。あなた女の子よりもキレイなんですから性別不詳で行きましょう。むしろ男と発覚してもついてるだけ2倍美味しいかと」
「世の男の子の中で眠ってるビースト召喚するのやめたげて」
「男の子だけだと思ったんですか! 女の子だって新しい性癖の扉を開きますよ!!!」
なぜか女性陣は「うん、うん」と首を振っている。
なんなのお前ら。
すると紫苑が手を上げる。
「ところでバニーどうします?」
「やめろ、そんな目で俺を見るな」
結局着せられた。
紫苑がもの凄い勢いでバニー姿の俺の写真を取る。
ジャケットつきの肌面積が少ないやつでよかった……。
俺はメイクされて誰だかわからんからいいけどさ。
「ほえぇー……タグに【彼ピ】とつけて送信っと」
「待て、どこに送りやがった!」
「え? 水沢・エカテリーナ・鏡花の鳥ッターアカウント」
「マネちゃん! バカが取り返しつかないことしやがった」
炎上じゃ!
大炎上が起きる!!!
祟りじゃー!!!
「大丈夫だと思いますよ~」
「え?」
紫苑のエカちゃんアカウントを見る。
あっと言う間に1万リプライを超えていた。
だがコメントは荒れることもなく「かわいい」であふれていた。
そう、誰も、俺が、男だと思っていなかったのである。
いや仮に男でもついているだけお得なのであった。
なんでや!!!
次に多かったのは「高橋恵ちゃんの娘?」というコメント。
これは40代以上の人だと思う。
「はい晶ちゃん。クール系ポージング」
海外モデルがやりそうな、両手で髪をかき上げて見下ろしながら脇見せ。
「はい晶ちゃん。アイドルポーズ」
手を差し出しながら頭に謎敬礼ピース、シャキーン!
「はい晶ちゃん。ジョジョ立ち」
ジョルノ立ち!
「はい晶ちゃん、範馬勇次郎のカカト落し」
ぐはははははは!
……やってから気づいた。
その……股間やばくね?
ぱおーん的に。
「晶ちゃん……聞いて。これは個人用」
「データ消せ」
「ひいいいいいん! かわいいのに! かわいいのに!」
「うるせえ貸せ! あ……」
もみ合ってるうちに送信。
写真を確認。
セーフ。セーフ。
ファウルカップ、ちゃんと仕事してる。
……じゃねえよ!!!
【かわいい】
【えちえち】
あ、大丈夫だった。
ってそうじゃねえ!!!
「ユニットってなんですか!? だからガールズバンド!」
「ちっ、正気に戻ったか。えっと、伝説のアイドルの娘だとわかったことですし。この際、派手にぶち上げてしまおうかと」
「二次元で?」
「ええ。二次元で」
「晶ちゃんで?」
「いえ、伝説のアイドルの娘。高橋ラーナで」
うさんくせえ!!!
「晶ちゃんって五秒でバレない?」
そうだ紫苑!
もっと言ってやれ!!!
「公然の秘密にすればいいかと。だれも知ってるけど突っ込まない。そういう空気にします」
「うんそうだね! なるべくエロいコスチュームお願いします」
紫苑、貴様には失望した!!!
すると清水が入ってくる。
「お茶買ってきました~」
完全にスタッフ状態である。
「清水さんはどう思う?」
「……いちばんエロい方でお願いします。あとでそのバニーください」
ぺこりと頭を下げる。
つむじにチョップしたい!
「公認ストーカーの許可が出たのでそれで行きましょう」
「ふざけんな! つうかバニーは渡さねえからな! なにするかわからねえ!」
「ひどいよ! 蘭童くん! くんかくんかするだけだよ!」
「すんなバカ!」
するとマネちゃんが切り出す。
「バニー衣装の行方はいったん置いて、みんなにはコラボ配信してもらいます」
「ツッコミは俺一人ですか?」
「……」
「やめて、その沈黙」
もはや味方は誰もいない。
俺がツッコミに回るしかないのだ。
重い空気。
紫苑が慌てて手を上げる。
「えっと、晶ちゃんにコスプレしてもらいたいです!」
「却下じゃい!」
「いいじゃん! アイドルのやつにしようよ! 賛成の人~」
その場にいた全員が手を上げる。
マネちゃんにすら裏切られた。
あと清水、「逆バニー♪ 逆バニー♪ 逆バニー♪」ってつぶやくのやめろ。
いいかげんにしないとお前の親に言うからな!
「それ配信の意味ある?」
「私たちがはかどる!!!」
うるせえ!
警察に捕まってしまえ!!!
「逆バニーだけはしねえからな」
「ねえねえ、リンちゃん。去年イベントで着たアイドルアニメのセーラー服あったよね? 直せば着られないかな」
「メジャー持ってきますね」
マネちゃんがシュッと消える。
「ま、待て、話し合えばわかる」
女装が嫌なんじゃない!
お前らの目が嫌なんじゃい!!!
「メジャー持ってきました」
「さあ、計りましょう。数々の伝説を打ち立てたうちらが最高の少女にするから」
リンがにじり寄ってくる。
「だから衣装を着るのはいいけど、あんたらの目が怖い!!!」
「そ、そんなことにゃいよ……はあはあ」
「あきらめよ。けんちゃん! 美しいのが悪いのよ」
「ちょ、やめ、触るな! みぎゃあああああああああああああああッ!!!」
衣装はすぐに完成した。
紫苑と清水。憶えてろよ。
後で絶対仕返しするからな!!!
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