第21話

 次の日起きると、世界はおかしくなっていた。

 俺の動画がバズっている。

 いやVの方じゃなくて、俺の盗撮動画とか撮影会の動画だ。

 ……嘘だろ。

 よし、見なかったことにしよ。

 と思ったらマネちゃんから鬼電。

 SNSのメッセージではなく鬼のような着信。

 く、しかたない。出るか。


「なななな、なにをやったですか!!!」


「いやなんか学校で撮影したやつが流出して……」


「女子制服着て息切れしながらダブルピースで締めるとかなに考えてるんですか!? なにこのエロい顔……いったい何人の性癖を破壊すれば……200万再生! ギャーッ! どんどん視聴数が上がってる!」


 いや普通に息切れしただけなんですけど。


「いやちょっと撮影すればみんな納得するかなあと……」


「無防備すぎるでしょが!」


「いやー、でも中坊の蹴り技見て喜ぶ変態なんて……体操着はいてたからパンツ見えてないし」


「コメント見てください」


『かっこいい!』

『エッッッッッッッッッッッッ!』

『キックボクシング10年やっていますが蹴り方が甘くそれではダメージを与えられないかと。それにしても女子のキックエッッデュフフコポォ』

『エロッッッッッッッッッッッ!』

『床の建材、建築様式からの築年数逆算、講堂の窓から見える風景からXX中学校と特定しました。このようなけしからん動画を動画をギャワイイイイイイイイイイッッッ!!!』


「ちょ、三番目と最後」


「一応警察に通報しましたがあきらめてください」


 すると俺の部屋のドアが開く。

 オカンである。


「賢太郎。学校から電話だよ。って電話してるの?」


「あ、学校から電話が来たんで……」


「今から行きますので! 絶対にうかつな行動しないでくださいね!!!」


「あ、はい」


 電話を切って、学校からの電話に出る。

 校長である。


「蘭童か? 学校に問い合わせが殺到してる。今のところ個人情報だからと無回答で通してるが収拾がつかん。お母さんにも言ったが会社に電話してそちらで対応してくれ」


「あー、了解ッス。マネージャーにかけるんで切りますね」


 というわけでマネちゃんに折り返す。


「やばいよやばいよ!!! 学校に問い合わせが殺到してる!!!」


「あー、もう! 学校に行きますので! いいですか! 学校行っても余計な事しないでくださいね!」


 時間を見れば完全に遅刻である。

 ダメじゃん。

 母親の車で学校へ。

 学校の前は人だかりができていた。

 おもしろ半分勢がほとんど。

 高そうなビデオカメラを持った人までいる。

 報道の腕章をつけた人まで!!!

 こいつら人権って言葉知らんのか?

 しかたなく学校へ連絡。


「校長! 学校に入れないッス!」


「知らん!!!」


 ですよねー。


「んじゃ今日休みってことで」


「うむ。その蘭童は成績優秀だから無理して来なくてもいいぞ」


「いまそれ言います?」


 来てから言うなボケが!!!

 しかたないので学校の近くで停車。

 車の中でマネージャーが来るのを待つ。

 おかんはブチ切れながらも諦観していた。


「いつかこういう日が来ると思ってたのよ……お父さんの子どもだし」


「待て、親父のときはなにがあった?」


「他校からも見に来る人いてね。女の子と間違えられて芸能事務所は来るわ。ヤンキーが連れ去りに来るわたいへんだっだったわー」


「それどうやって解決したの?」


「暴力」


 あ、はい。

 すると電話がかかってくる。

 マネちゃんである。


「晶ちゃん。学校に着きました。どわあああああああッ! なんじゃこりゃ!!!」


「俺もわからん。なんか人が大量に来てるんよ」


 すると母親が「あらあら困ったわ~」と声を出す。


「賢太郎、見てみて~。学校が晒されてるわ~」


 地域の掲示板で学校が晒されていた。

 なんでも美少女がいるとか……。

 男なのだが。


「えっと。晶ちゃん、数万人単位で性癖がねじ曲がったようですが」


「俺にどうしろと?」


「ええっと……そのまま裏から入りましょう」


 裏からコソコソ入る。

 裏口にいる数人に鉢合わせる。


「え、男子の制服?」


「いまは男女共用らしいぞ」


「つか生で見たらやべえな」


 ごまかせた!!!

 実は男子で女性Vの中の人なのはバレてない。

 撮影される。

 で、校舎に入るとクラスの連中が待っていた。


「よう、災難だったな」


「つか誰だ!!! 動画勝手にアップロードしたやつ」


 すると全員が暖かい目で俺を見る。


「全員か? 全員なんだな」


 全員が「へへっ」と鼻の下をこする。

 女子も全員裏切者だ。


「賢太郎……おまえがかわいいのが悪いんだぞ」


「俺、もしかして虐められてる?」


「違う! 違うぞ!!! 俺たちはお前らのかわいさを世間に広めたかっただけなんだ!!!」


 殴っていいか?

 すると女子生徒が言った。


「そうだよ蘭童くん! 紗綾ちゃんだけは反対したんだから!」


「真田だけかよ!!!」


 泣くぞ俺。

 完全に虐めじゃねえか。


「俺たちは賢太郎を応援している!」


 うるせえ!!!

 もう怒った。

 職員室に行ってあることないこと言いつけてやる!!!

 てめえら笑えるのは今のうちだけだからな!!!

 ……と考えていた時代が俺にもありました。


「とりあえずクラスの連中には注意喚起しておく……事務所もアナウンスをしていただくということで」


 と悲痛な顔をする校長センセ。


「弊社の顧問弁護士経由で注意しておきます。もうこうなったら所属を明らかにした方がいいでしょう。プロはこれで大人しくなると思います。問題は業界外の方ですが……」


「美しくてごめんなさいね!!!」


「ええまったく。ここまで開花するとは……」


「あの死んだ目の蘭童がこうなるとは……」


「やめてガチで落ち込むのやめて」


「晶ちゃ……蘭童くん。あなたは自分の破壊力を少しは理解してください。ハッキリ言いますけど、あなたを見て性別を知ったら確実に性癖が壊れますからね!!!」


「ふええええええ」


「そうだぞ賢太郎。クラスでも何人かおかしくなってるぞ。女子だけじゃない。男子もだ」


「お、お母さん!」


 母親に助けを求める。


「あのね、賢太郎。新潟のおじさんね、若いころ男らしくなるために自衛隊入ったんだけど……すぐに退職させられてね……ほら、ひいひいおじいちゃんも戦中は村の未亡人にかくまわれてたみたいだし。うちにやたら親戚が多いのは……」


「そういうのやめてー!!!」


 そのクズのさだめはやめろ!!!

 で、俺は知らなかったわけだ。

 アナウンスを出すじゃん。

 俺がタレントなのがバレちゃうじゃん。

 企業も知っちゃうじゃん。

 ってのを。

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