ヒロインではありません。

あんぬ

第1話 運命?の出会い


「そこの、よろしくて?あなた名前はなんとおっしゃるの?」


お忍びであろうあきらかに貴族だと思われる女性に声をかけられた。


「ミモザと申しますが…」

「やっぱり…。ヒロインがこんな場所でなにをしているんですの⁉」


「…え?」


-----



私は下町に住むミモザ。

両親はパン屋を営むごく普通の平民だ。


今日は店の手伝いで買い出しに行っていたのだが、突然見知らぬ貴族風の女性に

「なぜヒロインがこんなところにいるの」

などと声をかけられたのだ。


曰く、

この貴族風の女性は”てんせいしゃ”だそうだ。前世の記憶とやらがあるらしい。

曰く、

私はおとめげーむ?のヒロイン?であり、実は男爵の隠し子なんだとか。

曰く、

物語の中ではその男爵に望まれ、貴族籍を取り王国の学園に通っているはずなんだとか。


「あの、お言葉ですが…私が男爵様の隠し子というのはありえないかと。」

「そ、そんなはずはございませんわ!あなたエントーリ男爵と瓜二つですし」

「あぁ…父の兄だと聞いています。」

「…は?」


父はエントーリ男爵家の4男ではある。父と母の出会いも男爵家だ。

下働きとして勤めていた母に一目ぼれをした父が猛アタックをし、跡継ぎではない4男だったからこそ、平民の母と結婚できたのだ。

お父さんとエントーリ男爵は確かによく似た顔をしている。


「そんな、ライ様とミモたんを間近で見ることができませんの…?」

「お嬢様、そろそろお戻りになりませんと。」

「え、ええ、そうね。突然申し訳ございません。失礼いたしましたわ。」


護衛だろうと思われる方にその女性は連れられていった。

なんの冗談か、貴族間ではそんな物語や芝居でも流行っているのだろうか。

そもそもライ様って…ライザのこと?

そんなことを考えていると、遠くから声がした。


「おーい、ミモザどうしたんだ?そんなところでボーっとして」


幼馴染のライザだ。

目の前までやってきたライザに今起きたことを話した。


「ランマント侯爵令嬢かな…。」


どうやら心当たりがあるらしい。

ライザ曰く、自分が通っている学園にランマント侯爵令嬢がおり、初めて顔を合わせたときに同じようなことを言われたそうだ。

ライザは王都でも有名な商家の長男であるため、学園に通ってはいるが身分は平民。

突然侯爵令嬢から声をかけられたことから記憶に残っていたらしい。


「それにしても不思議なこともあるもんだな。お貴族様が俺たち平民のことを知りたいだなんて。」


「本当にね。私はむしろ貴族社会のほうが気になるな。」


もう会うことはないだろうが、面白い出会いもあるものだなとこの時の私は思っていた。

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