第27話 お茶の冷める間に
お茶を煎れて、持っていく。
添えてあるお菓子は、琥珀糖。半透明のお菓子は、とてもキレイだ。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」
水月の部屋の前で声を掛ける。「入れ」という水月の声に従って、部屋の中に入れば、長牙が置いていった手紙を読んでいる水月の姿。
――返事は、三日後にいただきに伺います。
長牙はそう言ったはずだ。
そして、その三日後までに私は、ミッションを終えなければならないのだ。
「そこへ置いておけ」
水月は、こちらへ目を向けずにそう言った。
手紙の内容は、もちろん知っている。私が書いたのだから。
内容は、双子の妹のこと。先に転生してきているかもしれない妹をどうやって探せば良いのか、方法を教えてほしい。そういう内容を書いた。
長牙は、そんなに正直に言ってどうするのかと止めたが、ここは、その情報を水月に伝えることで、水月を動かした方が良い。
水月がどのような考えかは分からないが、私の魂の片割れのことについては、興味を持っているはずだ。それならば、水月に妹のことを伝え、探させる方が良い。
そして、味方の顔をして、水月から情報を盗んで、先に妹を桃源郷で見つけるのだ。
「水月様。難しい顔をなされていますが、良くない知らせですか?」
何も知らない顔をして、私は水月に問う。
「ん? ……ああ、まあな」
曖昧な返事を返す水月。
やはり、それほど親しい間柄ではない子どもには、簡単には情報は渡さない……か。
「その手紙……桃の花の色ですし、桃源郷からですか? ということは、最近復活なされたと噂の西王母様から?」
私は、急須を傾けて、熱いお茶を湯のみの注ぐ。
鉄観音茶……かな?
「……なかなか観察力のある子だな。だが、人の手紙は詮索するべきではないな」
チラリとこちらを見て、水月が私をたしなめる。
どうやら、変装は成功しているようだ。水月は、私の正体に気づかない。
「申し訳ありません。桃源郷に興味がありまして……」
予定通りの言い訳を私はする。
この辺りの駆け引きは難しい。話に突っ込み過ぎれば、私の正体を疑われてしまう。だが、深く話をしなければ、水月から妹のことを聞きだすことができない。
「とても桃の花が綺麗な国なんでしょう?」
「ふふ。残念ながら、今は見る影もない」
「え、そうなんですか?」
「今は、一輪の桃の花すら咲いていまい。……まあ、この手紙によれば、その原因の発端は、分かってきたようだなが」
どうやら、少し話題を手紙から変えたことで、水月は油断したようだ。
「え? そうなんですか? それなら、すぐに桃源郷も復活いたしましょう。良かったですね」
私は、しれっと話題を目的の方向へと戻していく。
さあ、水月は、どう出るか。
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