第17話 木の大仙女 蓮華

 前方に見える仙女は、長い髪をなびかせながら前を睨んで一心に進んでいる。

 あれが、木の大仙女蓮華だろうか?


「蓮華! 待て! 早まるな!!」


 私と一緒に長牙に乗る炎花が叫ぶ。


「放っておいてください! もう耐えられないんです! これ以上、無下に蚩尤に木々が犠牲になるのが嫌なんです!」


 蓮華が叫び返す。

 蓮華を運ぶのは、桃源郷の木々。蓮華を木々が代わる代わる乗せて、前に運んでいる。


「蓮華! 落ち着いて! 私が! 私が必ず何とかするから!」

「も、桃華様!」


 私の声に、蓮華が振り返る。

 蓮華が止まる。


「桃華様、こんな幼い姿に……」

「記憶も不完全なんだぜ」


 不安そうに、蓮華と炎花が私を見る。

 えっと、そうだよね……。私が何とかすると啖呵を切ったけれども、どう見てもそんな蚩尤の大軍と戦えそうにないよね?

 分かる。

 大丈夫なのかよって思うよね。


 私もそう思う。

 でも、でも今、そんな弱音は駄目だ。


「わ、私が何とかするから、協力してくれるかしら……」


 おずおずと私が述べれば、炎花が、フフッと吹き出して笑い出す。


「桃華様。無理しないで下さい」

「でも! 蓮華を一人で向かわせる訳にはいかないでしょ!」

「そうですよ。桃華様。そんな中途半端な身で何をしようというんです。この長牙には、とても今の桃華様が蚩尤の大軍を退治できるとは思えません」


 ううっ……。正論だ。

 でも、私にだって考えがあるのだ! 何も私だって、勢いだけでこんなことを言ったわけではないのだ……よ? ちょっと強引な作戦だけれども。


「な、何も、蚩尤の大軍を一掃しようとは思っていないし」

「というと……どういうことですか?」


 蓮華が私の言葉に興味を持つ。

 良かった。蓮華は冷静になってくれたようだ。


「要は、あの早春の門を開けさえすれば良いのよね?」

「そうですね。そうすれば、私も炎花も、それに睡蓮様だって力を取り戻しますし、崑崙山へ落ち延びた仲間が戻ってくることもできるでしょう。でも、どうやって?」

「門の前には、たくさんの蚩尤がいるのですよ?」

「だから……その、長牙のスピードを使ってね……」


 私は、考えた作戦を皆に話す。

 一番負担の大きい長牙が、ウェェェ。と、弱音を吐く。


「それって、すごく大変なんですけれども」

「でも、それ以外に良い方法ってないでしょ?」

「う~ん」

「クソ猫。お前しかまともに仙術を使える奴がいないんだから。お前の負担が増えるのは仕方ないだろう?」

「それは炎花様が、ポンコツ仙女だからでしょ?」

「ほう……尻尾の毛とお別れを言いたいようだな……」


 炎花の手でチリチリと火が燃える。


「長牙。申し訳ありませんが、協力願えませんか?」


 蓮華が長牙に頭を下げる。


「木の大仙女様がそんなもったいない! ……そうですね。ダメ元でやってみますか?」


 私たちは、早春の門を取り戻す作戦を決行した。






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