十四膳目:四月某日(火)お吸い物にハマった我が家の寝ぼすけ坊主

 今年も満開の桜の中で始まった、新しい季節。

 花粉症の我が家の寝ぼすけ坊主は鼻をずびずひさせながら、新たな学び舎へと通い始めた。

 ……が、慣れない環境&毎日出される膨大な課題の量にすでにヘトヘトの状態。

 そんな影響もあってか、四月に入ってからの朝食はかなりあっさりした物を好んで食べるようになっていた。

 特に、最近のお気に入りは『お吸い物』。

 しかも味に対するこだわりも強く、出汁は干し椎茸から取り、ネギを入れることが絶対条件。

 他の具は『出汁の味を邪魔するからいらない』とのこと。

 以前、丸一日缶詰め状態だった塾帰りの夕飯にたまたま出したお吸い物を飲んだ時に、疲れを癒やしてくれた記憶が残っているらしく、その味を求めているのだとか。


「ふぅ〜。これこれ、この味。やっぱ、ネギがいいアクセントになっているんだよな〜。はぁ〜、身体に聞く〜」


 と、この間の朝食時に感想を述べた我が家の寝ぼすけ坊主。


 ……君はいったい、今何歳なのだ。


 常日頃の言動から感じていることなのだが、我が家の寝ぼすけ坊主は『1990年代から生まれ変わった転生者なのではないか』と疑っている。

 我がお腹から出てきたのは間違いないのだが、趣味嗜好があまりにも年相応ではないのだ。流行りの物には興味を示さず、昔からある物に興味を示したりする方が多いように感じる。

 例えば、スマホやタブレットに内蔵されている便利なアプリ機能を使うよりも紙のメモ帳を使いたがるためいつもズボンのポケットに入れておいたり、九万語が載っている国語辞典を机に常備して愛用したりするなどアナログの方法を好んだり、好きなゲームも流行りのオンラインゲームをやるよりは、90年代に流行ったゲームのリメイク版やリマスター版をプレイしたり、家に残ってるまだ使用可能な古い実機(セガサターン等)を動かして楽しんだりしているといった具合だ。

 まあ、ゲームに関しては完全に親の影響なのだが。


 そんな、趣味がゲームの我が家の寝ぼすけ坊主は、完全にインドア派。

 中学時代の部活は『製作部』という週に一回だけ、しかも部員とお喋りしながらプラモデルを作るといった超お気楽部に入っていたため、運動部にはとんと縁がなかった。

 なので、高校でももちろん運動部に入るなど毛頭考えておらず、さらに『土日はゲームしたいから、高校でもし部活入っても週に一回くらいの楽な所にする』と断言していた。

 親からすれば、普段あまりにも運動不足なため、高校では体力をつけられる部に入ってほしいという願いもほんの少しだけあったのだが、まあ、我が家の寝ぼすけ坊主の人生だ。仕方あるまい。

 高校では中学校以上に部活動の種類が増えるので、本人の興味を引くものが一つでもあればと思っていたが、きっと『帰宅部』を選択するだろう。

『疲れるのはヤダ』『勉強だけで大変だからすぐ家帰ってのんびりしたい』と何度も口にしていた我が家の寝ぼすけ坊主なので、“高校デビュー”といった劇的な変化があることもないだろう。

 本人の希望通りお気楽に、のんびりと高校生活を楽しんでいってくれればいいか。


 と、今日も我が家の寝ぼすけ坊主お好みのお吸い物を準備していたある日の朝。


「おはよー。朝ご飯はお吸い物以外出来てるから、顔と手を洗ってちゃちゃっと食べちゃって。あと、お弁当はここに――」

「俺、演劇部に入ることにした」

「………………えっ?」

「週五部活があって、日曜は休みだけど、土曜は活動する日もあるって。結構ガチ目の部活」

「ええっ?」

「もう入部届出したから」

「えええーーーーーーっ!?」



 衝撃の朝の一コマ。

 今日も元気に、いってらっしゃい。


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