「正体」
(プログラムは俺も七回経験しているが、場所も内容もまったく違うため具体的な対策が立てられない…強いて言うのなら、生き残るためにはシスターの忠告を聞き、最善の方法を取ることしかできないな)
川端の話を思い出しつつ、テーブルでお茶をすする女性たちを眺める勇。
今のところ、変わったことは何も起きていないが、生き残るのが一人であると聞いている以上、何がしかのイベントが発生することは容易に想像できた。
(部屋の中は出入りが不可能で壁にはインテリアのブロックがいくつか…あと、それを照らす黄色いライトぐらい)
ついで「…ねえ、聞いてる?」と声をかけられ、勇は顔を上げる。
みれば、テーブルの上に載っていたケーキもすでに残りわずか。
「さっきね、日本ではバレンタインデーにチョコを送る習慣があるって話をしていたのだけれど。本当のところはどうなのかなって思ってね?」
そう言ってイタズラっぽく微笑むそばかすの少女に(おいおい。最初にそっちが指南って言ってたから、こっちも真剣に考えていたのに)と、半ば呆れつつ、勇は素直に答える。
「…まあ、高校時代はいくつか女子からもらっていたけどさ」
それにキャアキャアとふくよかな女性が嬉しそうに声を上げる。
「やっぱり?キミ、カッコいいからね。毎年どれくらいもらうの?」
それに「…いや、具体的な枚数まではちょっと把握が」と、目を泳がせる勇。
(そういえば、シスターも【彼女ら】と言っていた。そうなると、二人にも警戒しておいた方が良いのか?)
そんなことを考えている勇に「この娘ね。私たちの生活に興味があるみたい」とそばかすの少女が口を挟む。
「彼女たち、今までまともに外に出れたことが無くて。仲間以外、話らしい話をしてくれる人がいなかったそうよ」
「…うん?」
違和感を覚える勇に「まあ、事情は人それぞれだからね」と、そばかすの少女はどこか含みありげな顔をする。
「団体の呼びかけに応じてきてくれた子の中には、虐待やいじめで駆け込んできた子もいたから。私たちの団体は親世代から続く集会が元になっていてね。幼い頃から両親と一緒に話を聞いたり面倒を見たりしていたんだ」
「…でもね。いくら世代が代わっても、問題の本質は変わらなかった」と不意に少女の顔が曇る。
「二十一世紀に入って、今までの倍以上の計算ができる量子コンピュータが出たとか、人工知能やバイオ分野の技術競争が話題になっているけれど。反対に、人間同志の繋がりや接し方は年々後退してきている気がするの」
「――ちょっと待て、話が見えないんだが?」と尋ねる勇の言葉を少女は
「先日、キミが出ていた動画。そこで自殺した子も、そのタイプだったんじゃない?…逃げたいのに逃げられない。追い詰められて、結果として彼女は死んでしまった」
「…え?」
ギョッとする勇。だが、その横で「あ…終わってしまいました」と最後の菓子を口に入れた女性が肩を落とす。
「もう少し、お話をしたかったのですけど。無くなってしまいました」
見れば、すでにティーセットの上下全てがカラとなっており、周りのテーブルも似たり寄ったりとなっていた。
「困りました、お腹が空いて。我慢したいのですが、こちらも辛くて…」
女性は、癖なのか困ったように体を前後に揺らす。
「ああ、はしたない。もっと皆さんと話がしたいのに」
その顔に何度も十字に切れ目が入り、パクッパクッと割れて閉じてを繰り返す。
「食べたくて、食べたくて、欲しくて、欲しくて…あああああ!」
割れた頭部が勢いよく前のめりとなり、ティーセットを台ごと飲み込む。
「ああ、ああ、ごめんなさい。お腹が空いて、食べたくて…!」
手が、足が、服が、バラバラとほどけていく女性の体。
――そこにあるのは巨大な植物。
三メートルはゆうに超える巨体が、花弁に似た巨大な口を開閉させ、勇たちのいたテーブルへと襲いかかる。
「危ない!」
砕け散ったテーブルの破片が飛ぶなか、とっさにそばかすの少女の手を取り、席から離れる勇。
すでに周囲のあちこちから悲鳴が上がっており、座っていた人々は散り散りになりながら自分たちの席に突如出現した化け物から逃げていく。
「俺たちも、あ!」
――そのとき、勇は気づく。
植物が夢中で食べているテーブルや椅子。
それらは鮮やかな黄色味を帯びていたが、足元までくるときまって植物たちは何がしか吐き出し、食べ残しは地面にコロコロと転がっていく。
(――黄色のものだけ、食べている?)
地面を転がるのは塗料の塗られていない茶色の椅子やテーブルの足。
「うわ、いやだああ!」
同時に声のする方を見て、勇は愕然とする。
天井から下を照らしていた黄色いライト。
それらのライトが自動的に向きを変え、逃げる男性を追っていく。
背後には近づいてくる巨大な植物。
植物は大きく口を開けると瞬く間に彼を飲み込み――
「あっ!」
勇は、その先を見せないようにとっさにそばかすの少女の目を隠す。
植物の立ち去った床。
カーペットに滴る赤黒い液体。
ライトは狂ったように室内のあちこちを照射し、照らされた物体を植物たちは本能の
「――まさに、自然。弱肉強食」
目を覆ったはずの少女から、そんな
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