都市伝説はやっぱり都市伝説なのだ。

「ねぇ~知ってる?全身麻酔から覚めた時、初めて口からでる言葉って…。その人の本質が分かる言葉なんだって。」

「そうなの?」

「うん。だから”愛してる”とか”殺してやる!”とか色々あるらしいよ。」

「へぇ~。」


 同じ病院で手術経験がある雪乃ゆきのちゃんがそう教えてくれた。


 もうすぐ手術をする為に入院することになっている かいりさん。不安がいっぱいで、毎日ネットで調べものをしています。どれも辛いことばかりがヒットして、不安はさらに加速しているそんな頃。


雪乃ゆきのちゃんは何て言ったの?」


 雪乃ゆきのちゃんは奇麗でとってもしっかり者。ばりばりの営業マンだ。

 去年同じように自分が経験してきたことを、面白おかしく伝授してくれます。すごく前向きで、 かいりさんその話を聞いて励まされています。


「私ね~、担当医の先生が大好きなの。先生だけが私の命を救ってくれる人なんだって思うだけで、本当に涙が出るくらい大好き。」

「そんなにカッコイイの?」

「そうだね~俳優さんに似てるの!ねぇ~見てみて♪」


 雪乃ゆきのちゃんが先生のプロフィール写真を見せてくれます。けど…正直似てないし、かっこいいか…わからない。


「う~ん。わかんないや。」

かいりもきっと担当の先生のこと、好きになっちゃうよ。綱渡り現象っていうのかもしれないけど、絶対。賭けてもいい。」


 何を?といいつつ、実際のところ かいりも担当医の先生にキュンキュンしている。本当に綱渡り現象で恋に落ちることはあるのだ。


「で、雪乃ゆきのちゃんは何て言ったの?」

「ふふっ。先生大好き!って言っちゃった♥」

「えぇぇぇぇぇ~~~っ。」


 雪乃ゆきのちゃん、本当に大好きなんだな~。だから検診で病院に行く日は、しっかりネイルを足も手も施して、かわいいワンピースを着てるんだね。


かいりも絶対、先生大好きっていうんじゃない?」

「う~ん。確かに大好きになりつつあるけど…そこまでかな~?(笑)」

「後で何て言ったか教えてね。」


 雪乃ゆきのちゃんは本当にしっかりしている。入院時に必要な”限度額適用認定証”の申請とか、何を持っていくのがいい!とか、マニュアルにはない必需品とかいろいろ教えてくれる。

 

 病院の楽しい穴場とか、仕事しているより肌が奇麗になるとか、先生と仲良くなる秘訣とか。楽しそうなことばかり教えてくれる。本当は辛くて痛くて悲しい事も沢山あったはずなのに。そんなことは一つも言わない。


かいり、大丈夫だよ。先生にまかせておけば大丈夫。先生を信じるのだ。だからネットで調べてたって意味ないよ。人によって症状だって治療法だってちがうんだから。ね。」


 雪乃ゆきのちゃんは心の支えだ。それから かいりさんはネットで病状を調べることを止めた。不安になるばかりだからそんな記事は読まないことにする。


 雪乃ゆきのちゃんは、ウィッグは3つくらい持っておくと楽しいよ~と言い、先生に会う時は続けて同じウイッグは使わないし、付まつげもしっかりつけて行くんだって力説してた。女子力が高いのだ。


 雪乃ゆきのちゃんのおかげで、楽しい入院生活が送れる。


 入院直前の問診時、先生が入院手続きや手術の日程について説明をしてくれた。先生は、すごく奇麗な手をしていて産毛なんてものもなさそう。爪もぜんぜん伸びてなくてお手入れが行き届いてる。


「では、これを持って受付で詳細を確認しておいてください。何か質問はありますか?」


 これで話は終わりって感じ。入院も手術も初めてなんだから分からないことが分からない。なにを質問していいかもわからず かいりさんは思ったことを口にする。


「先生には、会えますか?」


 先生はびっくりした顔をしている。 かいりさん…変なことを口走ったみたいですよ?


「会えるも何も、手術するのは僕ですし…。前日の検査も僕が担当します。会いたくなくても会えますよ。」


 会える。その言葉がどれだけ患者を安心させるか。魔法の言葉だ。とその当時の かいりさんは思ってる。


  かいりさんの主治医の先生もカッコいい(と かいりさんだけは思っている)。若くはなかったけど優しくて頼もしい。そしてなにより寝間着のボタンを外すのが速い(笑)

 検診するのにおしゃれなんて必要ないハズなのに、やっぱり雪乃ゆきのちゃんのアドバイスどおりテンションアゲアゲの寝間着を着ていたら、ちょっと面倒くさそうだったけれどパパパパっとボタンを外してくれる。


  かいりさん。まな板の上の鯉状態です。大人しくしているのが良いでしょう。ちょっと面倒くさい寝間着を選んじゃってごめんなさい。という気持ちも無きにしも非ずだ。


『明日手術だね~。緊張してる?』

「うん…。緊張しちゃうよね。でもね~雪乃ゆきのちゃんのおかげで、なんだか楽しいよ。」

『よかったよかった。麻酔から覚めたら~何て言ったのか教えてね。』

「もちろん!覚えていたらね。(笑)」


 手術の前日も雪乃ゆきのちゃん、 かいりさんを気にかけてくれてます。うれしいよね。


 明日の手術…。もし手術が終わって身体に管がついていたら、フルコースの治療になるって先生が言ってた。だから かいりさんは不安でいっぱい。


『大丈夫だよ。頑張ってね。あ、頑張るのは先生だけどね。』


 翌朝、朝一番の手術です。元気に歩いて手術室まで行くのです。そして自分で、よっこらしょって手術台にあがります。自分であがるとは…想定外。


 手術台にあがってしまえば、ここからはプロセスに乗っかってあれよあれよという間に機械を接続され、点滴をセットされ…口元には麻酔用のマスクがあてがわれます。


「大丈夫ですよ~。大きく息をすってくださ~い。すって~。」


 麻酔師さんが丁寧に教えてくれます。が… かいりさん、緊張しているせいか、なかなか麻酔が効きません。酒飲みだから?かもしれませんけど…。


 そうこうしているうち、先生が手術室に入ってきました。


桔梗ききょうさん、おはようございます。今日はよろしくお願いいたします。」


 先生の姿と声を聞いて安心したのか、 かいりさん、よろしくお願いいたします。と言ったとたん…ストンと眠りについたのでした。



 どのくらい時間がたったのでしょう。


桔梗ききょうさん、桔梗ききょうさん!起きてください。」


 麻酔師さんの声が聞こえます。手術室の入り口に担架に乗せられ目覚めた かいりさん。


「今何時ですか?」

「今13:30です。けっこう長い時間かかりましたね。」


―― 目が覚めたの?私生きてる。もうお昼すぎてるのか…。


「お腹…すいた。」


「えっ?」


 これが かいりさんの目覚めの第一声。


 ある意味恥ずかしいけど、都市伝説はやっぱり都市伝説なのだ。



END


*次回は…新しい夢を見たら、それをしっかり覚えていたら…綴っていきたいと思います☆最後まで読んでくれてありがとうございましたっ!

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