第14話 次のステップ

 初めて屋外で一夜を過ごしたイブリット。

 心配された体調も特に悪くはなく、むしろ好調と呼べるくらいだった。


「お嬢様、ご気分はいかがですか?」

「平気よ。むしろ調子がいいくらい」

「心なしか、初めて会った時よりもたくましく見えるよ。随分と成長したものだ」

「私もそう思う」

 

 幼少期からイブリットを知るタニアならともかく、まだ知り合ってからの時間が短いミアンやレジーヌの目から見ても、彼女の成長ぶりは明らかだった。


 とはいえ、まだまだ走り回ったり飛び跳ねたりするなどの激しい運動は難しい。あくまでも健康に一日を過ごせる程度だが、それでもこれまでのイブリットの生活を振り返れば、大きな進歩と言えた。


「これもレトロ魔法の成果かな……?」

「まあ、多少はあるかもしれないね。まあ、たゆまぬ努力がもたらした嬉しい副産物だとでも思えばいいんじゃないかな」


 ミアンはそう説明する。

 魔法の習得と体調改善における関係性はさておき、昔よりも動けるようになっているのは確かなので、イブリットの思考も自然とより前向きなものとなっていた。


 朝食を終えると、再び領地を調査するために周辺を歩き回ってみたが――想定していたよりもずっと広く、さすがにすべてを確認するのは難しいだろうと判断。途中で引き返すことになった。


「でも、まだ調べていない場所も多いのよねぇ……」

「それなら私に提案がある」


 そう切りだしたのはレジーヌだった。

 

「提案って?」

「うちの商会から人を送ってもらう。この領地が取り引きできる相手だとうちの代表が判断すれば、いろいろと支援してくれるはずだから」

「あなたのところの代表って……あのスチュワート・ラッシュブルク?」


 ラッシュブルック商会は、国内でも有数の大商会。

 そこに認めてもらえれば今後の領地運営に大きなプラスとなるのは間違いない――が、大商会のトップというだけあり、その鑑定眼はかなり厳しくて有名だった。


 なので、イブリットにとっては不安な面の方が大きかった。


「そう言ってくれるのはありがたいんだけど……御覧の通り、自然は豊かになったけど、まだそれだけしかない領地に支援をしてくれるかしら」

「スチュワート代表は常に将来性を見ている。それに……イブリットのような人が領主だと分かれば、きっと協力してくれるはず」

「だといいけれど……」


 正直、イブリットに自信はなかった。

 それでも、この領地を大きくしていくためには「大商会との取引」という項目が立ちふさがる問題でもある。ようは遅いか早いかの違いだけだ。


「まあ……避けられない道ではあるわね」


 大きく息を吐きだしながら、イブリットは覚悟を決める。

 大商会との取引を成功させるため、スチュワート代表にこの領地をチェックしてもらうことにした。


「じゃあ、私は早速その件を代表に伝えてくる」

「お願いね」


 馬に乗って商会へと戻るレジーヌを見送った後、イブリットは緊張をほぐすようにレトロ魔法の修行にとりかかった。

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