勇敢騎士

@mlosic

第1話シェーディング

 私は今まで何度も受けてきた死刑宣告を待っていた。


「今回もダメだったみたい」


 ほらね。やっぱり死刑。


 今私がいる職員室では、他の先生たちの話し声がチラホラと聞こえてくる。私は裁判官が判決を下した後、見学人たちがひそひそと喋っている場面を思い浮かべていた。静粛にしてほしいものだ。


「そう・・・・・・ですか」


 正直なところ、何とも思っていないというと嘘になるが、人間何度も同じ経験をすると、大抵のことは慣れてくる。今回も例に漏れず当てはまる。


「次、頑張りましょう!」


 私の目の前に座っている三木先生が、腕を大きく振り励ましてくる。


「次って、今回で私が受けれるの最後ですよね」


「あ、そっか」


 三木先生は自分の机に置いてあるプリントに目を通す。それから少しして私の方を向いた。


「浅田さん、絵は続けるのよね?」


「・・・・・・」


 先生の言葉を受けて黙りこむ。私は今、中学三年生で絶賛、進路について考えないといけない時期だった。


「少し、悩んでます。コンテストに一度しか入選したことがないのに、これ以上続けてもって」


 私は今まで数々のコンテストに応募してきたのだが、入選した経験は入部してからすぐに受けたコンテスト一度きりだけだった。


「そっか」


 先生の伸びていた姿勢が少しうなだれる。


「でも私、浅田さんの描く絵好きだから。なんでも相談にのるから言ってね」


「ありがとうございます」


 軽く頭を下げてお礼を言い、私は職員室を出た。


「私、なんで絵かいてるんだっけ」


 思わず心の声が漏れていた。私は部室に向かった後、少ししてから家に帰った。


「ただいま」


 座って靴を脱いでいると後ろに弟が通る。


「おかえり」


「あ、うん。ただいま」


 弟はそのまま自室へと向かった。


「はぁ」


「いつからだっけな」


 私は今、弟の維人(いと)と少し疎遠状態になっていた。喧嘩をしているというわけではないのだが、少し気まずい。昔はそこそこ仲が良かったのだが、今は挨拶ぐらいでしか言葉を交わさない。


 靴を脱ぎ終えると、私は手を洗いリビングに向かった。


「お母さん、ただいま」


「おかえり」


 私は洗い物をしていた母の後ろを通り、麦茶を一杯飲みほした。


「あ、コンテストだめだった」


「あら、残念だったわね」


 母は最後のコップを洗い終えると、手をタオルで拭きながら私に言った。


「麻衣(まい)は進路どうするの?」


 少し前に聞かれた質問が、再び私に牙を剥く。


「どうしよっかな、んー、でも絵はもういいかなって思ってるんだよね」


「維人のことで悩んでる?」


 少し心配そうにお母さんが私に尋ねてくる。


「維人も来年中学生だし、もう気にして・・・・・・」


「違うよ、そんなんじゃないって」


 私は、お母さんの言葉が意味を持ってしまう前に答えた。


「じゃあ宿題あるから」


 そして、逃げるように自室へと戻った。

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