第12話 新しい仲間。

 町の外にある粗末な墓地にギルとシア、そしてフレイアの姿があった。熱い日差しの下、彼らの視線の先では、一人の少年が大きめの石を置いただけの新しい墓の前で膝を付き一心に祈っている。少年はアミールだ。この下で永遠の眠りについているのは、彼の母親だった。

 ギルが捕らえた人攫い達があっさりと口を割り、奇跡的にアミールの母親の行方を追うことができた。

 だが、やっと会えたアミールの母親は、重い病気に罹(かか)っていた。まるでアミールを待っていたかのように、彼女は息子の元気な姿を見届けると、安心したように息を引き取ったのだった。


 ザリッ


 アミールが足元の砂を鳴らし立ち上がった。振り向いた彼はギルとシアにまっすぐに向き直る。その目には強い光を宿していた。


「ギルさん、シアさん、フレイア様」

「何だ?」

「もうすぐこの町を出るんだよね?」

「ああ」

「オレもあなた達と一緒に行きたい」

 

アミールは決死の表情で願いを口にする。ギルは憂いを帯びた眼差しでアミールを見つめた。


「おまえは聡(さと)い。このまま慣れ親しんだ町でどんな仕事でもやれると俺は思っている」


 アミールはギルの目をまっすぐに見上げながら、拳を強く握りしめた。


「……この町に親しみなんて無いよ。もし母さんが生きていたらギルさんが言うような生き方を選んでいたかもしれない。でも、母さんはもういないんだ」 

「すまない。アミール、おまえを一緒に連れて行く訳にはいかないんだ」

「どうして? 理由を教えてよ。荷物持ちでも何でもするから! お願いだよ!」


アミールは諦めなかった。跪いて頭を地につけ懇願する。ギルとシアは一瞬瞠目すると、硬い表情で顔を見合わせた。

突然、シアの服の裾を握っていたフレイアが手を離し、アミールの傍らにしゃがみ込んだ。


「フレイア様?」


 シアが困惑した声でフレイアの名を呼んだ。フレイアはアミールの背にそっと手を置き、まっすぐな眼差しでシアを見上げる。


「……アミールの同行を望まれるのですか?」


 シアが問えば、フレイアはこくりと頷いた。シアは助けを求めるようにギルへ視線を向ける。


「そんな目で俺を見るなよ。仕方がないだろ? 殿下のご希望だ」


 ギルは一歩前に進み出ると、アミールの前に屈みこんだ。


「アミール。聞いてくれ」


 アミールが顔を上げた。その顔には不安が見て取れた。


「お前も母親と旅をしてきたのだから知っていると思うが、俺達との旅も過酷だ。危険を伴う旅になる」


アミールは真剣な顔で頷いた。恐らくこの町に母親と来るまでにも大変な思いをしたに違いない。


「俺達の目的地はアステリア国だ。ここからはずいぶんと遠い。まずは砂漠を越えなくてはならん。それに、今からの旅は野宿になる。……言いにくいんだが、その金も」

 

 頭を掻きながら言いにくそうにギルが説明をする。


「それでもいいというなら……」

「お金が無いんだね?」


 ギルの声を遮り、アミールが核心をついてくる。閉口するギルの肩をシアが慰めるように軽く叩いた。


「稼ぐ方法はあるよ」


 次に続いたアミールの言葉に、ギルだけでなくシアも目を見開く。


「今この町に大商人のキャラバンが来ているんだ。護衛を募っていたよ。二人なら絶対雇ってもらえると思うんだ。キャラバンだから、フレイア様も安全じゃないかな?」


 ギルはアミールを立たせた。服に付いた砂を払ってやる。

 そして、アミールの右手を取った。

 

「アミール。今日から俺達は仲間だ」

 

 一瞬目を瞬かせたアミールは、すぐに破顔したのだった。

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